研究課題/領域番号 |
19K23596
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
廣田 聡 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 博士研究員 (20847181)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | ES/iPS細胞 / ハイドロゲル / バイオマテリアル / 幹細胞ニッチ |
研究実績の概要 |
ハイドロゲルは網目状構造内に多量の水分子を含む高分子であり、生物組織と類似した特徴を持つことから、バイオマテリアルとしての応用が期待されている。特に再生医療研究では、ES/iPS細胞を含む様々な幹細胞の増殖法や分化誘導法、器官形成法の研究が盛んに行われており、これらの過程で細胞を支持し、機能調節する基質としてハイドロゲルが注目されている。一方で、これまでの研究で用いられたハイドロゲルの多くは生物材料に由来しており、成分や性質を厳密に調節できないことや生物由来成分の残存などの課題があった。そこで本研究では、化学合成した種々のハイドロゲルを培養基質として使用し、ES/iPS細胞の性質や機能に与える影響を体系的に解析している。本年度の研究では先ず、マウスES細胞およびヒトiPS細胞を種々の合成ハイドロゲル上で培養し、未分化状態の維持が可能であること、それぞれのハイドロゲル上において細胞の形状が異なることを見出した。また、いくつかの合成ハイドロゲル上でES細胞に分化誘導を行った場合、中胚葉もしくは内胚葉系列の細胞に分化しやすい事が分かった。さらに、ハイドロゲルの物理的性質がES細胞に与える影響を詳細に検討した結果、特にゲルの電荷がES細胞の機能に大きく影響することを見出した。具体的には、未分化なES細胞及び分化した細胞では、細胞の接着と増殖に適した電荷が異なること、電荷によってES細胞の分化効率が変化することが明らかとなった。今後、様々な合成ハイドロゲルがES/iPS細胞に及ぼす影響を解析することで、ハイドロゲルを用いた多能性幹細胞の制御法を確立したいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、合成ハイドロゲル上でマウスES細胞が未分化状態を維持しながら培養可能であることを明らかにし、分化の方向性に違いが生じることが分かった。そこで、ハイドロゲルが持つ性質のうち、どのような物理的性質が細胞機能に影響を与えるかを詳細に検討した。その結果、特にハイドロゲル表面の電荷が、マウスES細胞及びヒトiPS細胞の自己増殖能や分化能に大きな影響を与えることが分かった。興味深いことに、マウスES細胞とヒトiPS細胞では、接着に適した電荷が異なっており、電荷への細胞応答に種間の差異が存在することが分かった。マウスES細胞の分化ではFGFシグナルが重要な役割を担っているが、正電荷ゲル上で分化誘導した場合にはこの経路が阻害され、未分化状態が維持されること、一方で負電荷のゲル上では分化が促進されることも明らかになった。この結果は、培養基質の電荷によって細胞状態を制御できることを示唆しており、電荷の情報が細胞膜上の受容体を介して細胞内に伝達され分化誘導に影響を与えたと考えられる。このように、本年度の研究により各種ハイドロゲルが幹細胞機能に与える影響の解明が着実に進み、培養基板の荷電状態が多能性幹細胞の機能に影響を与えるという重要な知見を得た。今後さらに詳細な分子機構の解明が見込まれることから、当該年度の研究は「おおむね順調に進んでいる」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、本年度の研究では培養基板として利用したハイドロゲルの荷電状態が多能性幹細胞の接着性や未分化状態の維持、さらには分化能に影響を与えることを明らかにした。さらに、荷電状態が幹細胞に影響する分子機構の一端として、FGFシグナルが電荷によって制御されることを見出した。今後の研究では、培養基質の荷電状態が細胞に与える影響をより詳しく解析するため、遺伝子発現やタンパク質の発現、活性状態の変化を網羅的に解析することが必要であると考えている。RNA-seqやプロテオーム解析などを行い、細胞外の電荷に反応する遺伝子やタンパク質の特定を行う予定である。そして、これらの因子の働きを機能阻害やバイオイメージングなどの手法を用いて詳細に解析していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究では、各種ハイドロゲルがES/iPS細胞に与える影響を解析し、その結果ハイドロゲル表面の荷電状態が多能性幹細胞の機能を制御するという重要な知見を得た。そこで、この現象のメカニズムの解明につながる基礎的な解析を重点的に行い、未分化状態と分化状態を決定するFGFシグナル伝達経路が培養基板の荷電状態に影響を受けることを突き止めた。一方で、当初予定していた網羅的な遺伝子発現解析やタンパク質の発現解析が後回しになったため、これらの解析に必要な経費を次年度に使用することになった。
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