ハイドロゲルは網目状構造内に多量の水分子を含む高分子であり、生物組織と類似した特徴を持つことから、バイオマテリアルとしての応用が期待されている。特に再生医療研究では、ES/iPS細胞を含む様々な幹細胞の増殖法や分化誘導法、器官形成法の研究が盛んに行われており、これらの過程で細胞を支持し、機能調節する基質としてハイドロゲルが注目されている。一方で、これまでの研究で用いられたハイドロゲルの多くは生物材料に由来しており、成分や性質を厳密に調節できないことや生物由来成分の残存などの課題があった。そこで本研究では、化学合成した種々のハイドロゲルを培養基質として使用し、ES/iPS細胞の性質や機能に与える影響を解析している。 前年度において、培養基板の電荷が幹細胞機能に影響を与えることを明らかにしたが、今年度では足場の電荷が与える影響についてより詳細な解析を行った。電荷を有した合成ハイドロゲル上でマウスES細胞の分化誘導を行い、これらの遺伝子発現の変化を次世代シーケンサーにより網羅的に解析した。その結果、中性から負電荷のゲル上で分化誘導を行った細胞の遺伝子発現パターンは分化細胞と類似しているのに対して、正電荷のゲル上における遺伝子発現パターンは分化前の状態に近いことが明らかになった。また、Primed型ヒトiPS細胞を正電荷ゲル上で培養をすると、KLF4などの発現が上昇することが分かり、より未分化能の高いNaiive型ヒトiPS細胞が持つ特徴を獲得していることが示唆された。 今回の研究により、幹細胞がもつ足場の電荷に応答する分子メカニズムの一端を解明することができた。また、電荷により幹細胞機能を制御することができる新たなバイオマテリアルの開発につながると考えている。
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