研究課題/領域番号 |
19K23598
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
張 慧 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (80794586)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | シリコンナノワイヤバイオセンサ / 電子線リソグラフィ / 構造最適化 / 高感度化 / マイクロ流体チップ |
研究実績の概要 |
ウイルスを高感度かつ迅速に検出するため、シリコンナノワイヤ(SiNW)バイオセンサの構造最適化により、サブaM感度のバイオセンサシステムの創製を目的とする。令和2年度は、以下の3項目について研究を推進した。 (1)SiNW細線化によるセンサ検出感度の評価:SiNW細線化効果を解明するため、R1年度に作製した幅11 nm~155 nmのSiNWバイオセンサを用い、抗原抗体の特異的な結合による免疫グロブリンG (IgG)の検出感度を評価した。測定結果から、SiNWの細線化に伴う検出感度を大幅に向上させることが確認できた。 (2)SiNW内部不純物濃度の低減によるセンサ検出感度の評価:従来のSiNWバイオセンサの作製は、電子線リソグラフィによるHSQレジストNWを形成した後に、東京大学の高密度プラズマエッチング装置を用いてSiNWを形成した。しかし、R2年度はコロナの禍で東京へ出張できなかったため、研究室所有のソフトプラズマエッチング装置を代用してSiNWの形成を試みた。ドーパント剤の希釈濃度、熱拡散温度を制御することで、異なる不純物濃度を持つSiNWセンサを作製した。幅35 nm程度の異なる不純物濃度を持つセンサを用いたIgG検出結果から、不純物濃度の低減によって検出感度が向上する可能性を確認した。 (3)マイクロ流体チップの試作:3Dプリンター及びR1年度に導入した脱泡機を用い、マイクロ流路型を試作した。マイクロ流路の位置に合わせて、SiNWバイオセンサを搭載した。生体分子溶液の導入実験を行ったところ、溶液の漏れがなかったことを確認できた。しかし、本研究で作製した流路の開口幅は数mmレベルであるが、唾液や鼻水などの検体溶液中の夾雑物を除去するため、数μm幅のフィルタの形成が必要である。今後の研究でフォトリソグラフィによるマイクロ流体チップを作製する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
SiNWバイオセンサの構造最適化による超高感度バイオセンサの創製を目指して、本年度は前記の(1)~(3)までの研究を行ったが、コロナ禍のため東京大学への出張と装置利用ができず、一部の研究は当初予定の研究計画より遅れている。具体的な状況は下記の通りである。 前記(1)のSiNW細線化効果の評価では、幅11 nm~155 nmのSiNWセンサを用い、抗原抗体の特異的な結合による免疫グロブリンG (IgG)がSiNW表面に付着する際にSiNWの抵抗変化率とIgGの濃度依存性を調査した。SiNWの細線化により、抵抗変化率が急激に増大することが確認できた。そして、この実験結果を生体分子付着前後のSiNW抵抗変化率の理論式とフィッティングすることで、IgG濃度の増加に伴いSiNW内部の空乏層の変化幅を求まった。計算結果から、SiNWの細線化による空乏層変化量がチャネル全体に占める割合が大きくなるため、比表面積が大きい極細線SiNW構造で検出感度の著しい向上が発見したと考えられる。この発見は大きな進捗であると考えている。前記(2)のSiNW不純物濃度効果の評価では、SiNW内部の不純物濃度を低く抑えることで、IgG生体分子の検出感度が向上する可能性が確認できた。しかし、R2年度に東大の反応性イオンエッチング装置利用ができず、幅10 nmへ細線化したSiNWの不純物濃度効果の評価はできなかった。前記(3)のマイクロ流体チップの試作では、SiNWバイオセンサを搭載した流体チップを試作し、生体分子溶液を流路へ導入した際にセンサの動作特性が確認できた。ただし、当初予定の開口幅が数umのPDMS流路の実現は至らなかった。 以上の理由より、研究が進捗した部分と遅れている部分があるので、総合的にやや遅れていると自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の項目について研究を進める予定である。 (1)幅10 nm以下のSiNWバイオセンサの作製:SOI基板上に塗布したHSQレジストを薄膜化することで、電子線の散乱範囲を抑えられるため、幅20 nm以下のHSQ NWを形成する。そして、それをマスクとしてRIE処理を行い、幅10 nm以下のSiNWを形成する。もし、1回のRIEでは10 nmへ細線化できない場合、SiNWを熱酸化し、追加エッチングにより細線化を実現する。 (2)マイクロ流体チップの作製:これまでの研究では、3Dプリンターを用いてマイクロ流路型を作製しているが、数um幅の開口部の形成には限界があることが分かったため、今後の研究では、東京大学の電子線描画装置と自動現像装置を用いてマイクロ流路用フォトマスクを作製する。その後、群大のマスクアライナ露光装置を用い、マイクロ流体チップを作製する。 (3)検出系の構築及び実際のウイルスの検出:インフルエンザウイルスを特異的に検出するため、SiNW表面に抗体分子を修飾し、ウイルスの検出実験を行う。SiNWに流れる微小電流をモニタリングするためソースメータの測定データをデータ集録システムとソフト(LabVIEW)で連続集録システムを構築する。 上記の研究は主に申請者が実施するが、群大曾根逸人教授の設備を利用させていただくとともに、ご助言を得ながら進めていく。また、試料採集、ウイルス分解法、エピトープ結合のためのSiNW表面修飾法の確立は、群馬大学医学部の大嶋紀安助教、帝王平成大学の和泉孝志教授からご指導を受けながら、実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で東京への出張が自粛となったため、東京大学への出張と装置利用ができず、当初予定していた出張費および装置利用料を使用しなかった。また、論文が掲載されたが、掲載料がかからなかったため、研究費に未使用額が生じた。 次年度の使用計画は、コロナ禍が終息して出張可能となったら、前述のようにサブ10 nm幅のSiNWセンサ作製、マイクロ流路用マスクの作製を行い、装置利用料と旅費を支出する。また、研究に推進による取得した研究成果を学会発表、論文発表を通して発信するため、学会参加費、旅費、論文校閲費および掲載料を支出する予定である。
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