研究課題
胆道手術や肝移植における胆管胆管吻合の合併症として胆道狭窄が生じうる。胆道狭窄を解決するために、これまでに生体ポリマーやscaffoldを利用したさまざまな人工胆管の研究があるが、現在までに臨床応用されているものはない。そこで、狭窄部を置換することが可能なscaffold-freeである細胞のみで構成されたバイオ人工胆管の作製を目的として本研究を行った。家畜ブタから真皮を採取後、線維芽細胞を培養・増殖し、バイオ3Dプリンターによってブタ由来線維芽細胞のみの管腔構造体(バイオ人工胆管)を作製した。次にブタで総胆管を切離し同部位にバイオ人工胆管を同種移植し、術後2週目に全肝を含めて標本を摘出した。移植前と摘出術前に体重を測定し、術前と術後1、2週目に血液検査を行った。摘出後は透視による胆道造影やMicro-CTを用いて画像評価し、CK7、CK19、CD31の免疫染色を含む病理組織学的にも評価を行った。血液検査では術前から術後2週目まで肝胆道系酵素の異常はなかった。摘出した標本での胆道造影では造影剤の漏れや狭窄所見を認めず、肝内胆管の拡張も認めなかった。病理組織学的検査では管腔構造体は残存し、レシピエント胆管との連続性を確認した。また、胆管上皮の連続性はCK7、CK19で確認できなかったが、CD31によりバイオ人工胆管周囲組織に血管新生を認めた。scaffold-freeである細胞のみで構成された管腔構造体による総胆管の置換に成功した。
3: やや遅れている
線維芽細胞の培養・増殖に成功し、バイオ3Dプリンターを用いて人工胆管を安定して製造できている。また、豚への移植も問題なく行えており、摘出後の評価も安定している。問題点は、摘出した標本に胆管細胞が見受けられないところであり、長期モデルでの検討や新たな細胞を追加しての管腔構造体の製造が必要と考えられた。そのために、長期モデルを作成し、2回実験を試みたが、いずれも胆管の狭窄を認めた。技術的な問題も考えられるが、胆管上皮を加えた新たなバイオ人工胆管の作製を検討している。まずは、胆管上皮細胞の多量で有効な培養法を実験している。
これまでは2週間での観察のみにとどまっていた。長期観察として、1ヶ月モデルを作成したが、2回の結果は思うようにいかなかった。技術的にも人工胆管の構成としても改良の必要性があると考えられた。1ヶ月モデルでの結果が得られれば、必要の際には3ヶ月モデルを作製することも検討する。また、線維芽細胞のみの管腔構造体では、移植部位に胆管上皮を移植後2週間で観察することができなかった。そのため、線維芽細胞だけでなく、胆管上皮細胞や血管上皮細胞などを混合した管腔構造体の作成も検討中である。
2週間の短期モデルの実験の結果、胆管上皮が進展しないまたは再生していないために、長期モデルや新たな細胞を使用した実験に時間を要していることで研究に遅れが生じ、次年度使用額が生じた。長期モデルの実験のさらなる研究遂行に加え、本研究に関する研究の結果を学会発表する際の旅費、英文誌投稿に関わる校閲費等に使用する。
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Regenerative Therapy
巻: 16 ページ: 81-89
10.1016/j.reth.2021.02.001.