研究課題/領域番号 |
19K23612
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研究機関 | 茨城工業高等専門学校 |
研究代表者 |
澤畑 博人 茨城工業高等専門学校, 国際創造工学科, 准教授 (40571774)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | ブレインマシンインタフェース / 運動機能障碍 / 体性感覚 / 脳波 / 事象関連電位 |
研究実績の概要 |
運動機能障害を持つ患者のための補助装置として、ブレインマシンインタフェース(BMI)の研究開発が盛んであり、非侵襲的な脳波計測を応用した多自由度ロボット運動制御BMIに対する要求が高まっている。本研究課題では、重篤な運動障害を伴う筋ジストロフィー症や筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者においても感覚機能はほぼ正常に機能することに着目し、皮膚感覚に関連する脳波成分である事象関連電位(ERP)を利用した新しい原理を提案している。ERPは感覚刺激によって誘発される脳波応答成分で、特定の身体部位への意識的注意によって変調を受ける性質を持つため、これに基づいて利用者が身体のどの部位を動かしたいのかを脳波から読み取ることができる。この原理を用いたBMIを構築するため、令和元年度には、手指の皮膚に微小振動を加える刺激装置と脳波計測システムを構築し、刺激時の脳波を取得する実験を行った。加算平均法による解析を行った結果、意識的注意の有無によって変調を生じる特徴的な応答波形を得ることができた。そこで令和2年度は、意思的注意の有無による変調が最も強く表れる周波数成分とその応答タイミングを明らかにするために、短時間フーリエ変換を用いた時間-周波数解析を行った。その結果、刺激後およそ250 msで約6 Hz(Theta帯域)と約40 Hz(Gamma帯域)の周波数パワーが同時に増強することが分かった。これに基づいてサポートベクタマシン(SVM法)の機械学習を用いた解読プログラムを構築した結果、最大で92%の正答率で意識的注意の有無を判別することができた。また一方で、人工筋肉アクチュエータを用いたロボットグローブの試作を行い、対象者の手指を屈曲させる実験にも成功した。今後は、システムのリアルタイム化を図り、対象者の意思通りにロボットグローブを制御するBMIシステムの構築を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の令和元年度には、皮膚刺激および脳波計測システム、脳波中のERP検出によるターゲット部位推定アルゴリズム、ターゲット部位を駆動するロボットグローブに関する研究をそれぞれ行ったが、令和2年度はそれらを統合してBMIとして動作するシステムの構築を行った。 (ⅰ) ロボットグローブと組み合わせ可能なウェアラブル皮膚刺激装置: 手指の皮膚に微小振動を加えるための刺激装置を、人工筋肉アクチュエータを用いたロボットグローブと組み合わせ可能なように改良した。薄く柔軟なポリイミド樹脂フィルムを基材としたフレキシブル基板を用いて厚さ250 μmのフィルム状のコイルを製作し、これに直径5 mmのネオジウム磁石を取り付けることで電磁式の振動子として機能させ、皮膚表面に貼り付けて使用できるようにした。評価実験として脳波計測を実施したところ、製作した刺激装置を用いた皮膚刺激で脳波の感覚応答を誘発することできることが確認された。 (ⅱ) 機械学習による意識的注意の有無の判別: ヒト被験者を対象として手の第一指と第二指にランダムなタイミングで刺激を加えている場合の脳波応答を計測し、片方の指に意識的注意を向けている場合と向けていない場合の脳波応答を判別するために、サポートベクタマシン(SVM法)を用いた機械学習プログラムを構築した。自発的な脳活動信号や各種のノイズの影響を低減するために18試行分の応答波形を平均化処理した上でシグモイドカーネルを用いて学習させると、ホールドアウト検証を行った結果では最大で92%の正答率で意識的注意の有無を判別することに成功した。この研究成果は国内学会にて発表した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果として、皮膚刺激に対する意識的注意の有無について脳波の機械学習を用いた解析で判別することが可能になった。今後は、この判別結果をコマンドとして用いてロボットを制御することで、対象者の意志通りにロボットを操ることが可能なBMIの構築を目指す。そのための具体的な方策として主に2つの課題に取り組む。1つは、これまでは意識的注意の有無を判別するプログラムは、取得済みの脳波データを用いたオフライン解析として成功させていたが、BMIとして動作可能なリアルタイム化を図る。構築されたシステムについては、対象者の意志通りに制御可能であるか、即応的なシステムであるかについて定量的な評価を行う。2つめの課題として、リアルタイム化した判別プログラムから制御コマンドを出力してロボットグローブの制御を行う。これまでに試作した人工筋肉アクチュエータを用いたロボットグローブとフレキシブルコイルを用いたウェアラブル皮膚感覚刺激装置を組み合わせて用いることで、対象者は自分自身の指(運動機能障碍者であれば麻痺部位)を自分の意志で動かすことが可能になる。また、手指運動以外への応用として、身体障碍者の自立的な生活のために重要である電動車いすの制御などへの応用も検討する。以上の研究計画を推進し、得られた成果は学術論文、学会発表、特許として外部に報告してゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、実験に使用する脳波計の故障個所をメーカーに修理依頼する予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大の影響で海外メーカーが修理対応できない状況となり、修理費用が未使用となった。また、ヒト被験者を対象とした実験を予定していたが、新型コロナウィルス感染拡大防止のために実施回数を大幅に削減せざるを得なくなったため、消耗品費が未使用となった。また、当初の予定通りに研究成果発表として国内学会に参加したが、新型コロナウィルス感染拡大の影響でオンラインでの開催となったため、出張費が未使用となった。使用計画としては、脳波計の修理費用、ヒト被験者を対象とした消耗品費、学会発表のための出張費、学術論文の費用として用いる。
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