本研究は、フッ素官能基を有するアルコール、すなわちフルオロアルコールを鍵骨格とし、これを集積化した機能性分子合成と物性解明に挑戦するものである。フルオロアルコールは電子吸引性のフッ素基を多く含むために耐酸化性が高く、またアルコール基の分極が大きいために水素結合供与性が非常に強いという特徴がある。市販のフルオロアルコールを溶媒や添加物として有機反応に用いた研究例は数多く報告されている一方で、フルオロアルコールを機能性の官能基と考え、積極的に分子・材料設計に応用した例は限られている。 そこで申請者は、フルオロアルコールを集積化した機能性分子を合成し、その分子機能の調査を行った。特に、合成したフルオロアルコール集積化分子とアニオンとの相互作用に注目し、調査を行った。核磁気共鳴分光を用いた滴定実験により、本研究において合成した分子が多彩なアニオン種と相互作用を示すことが示唆された。特に、比較的ドナー性が低いアニオンとの相互作用を確認することに成功した。これは、フルオロアルコール基を1分子中に集積化させることによりアニオンとより強固な水素結合をすることが可能になったためであると考えられる。 さらに、合成したフルオロアルコール集積型分子を用いたイオン性分子の分子機能の変化を調査した。フルオロアルコール集積化分子による水素結合を受けたアニオンは、電子状態が変化することが予測されたため、電気化学測定や、吸収・発光スペクトル測定、導電率測定を行ったところ、いずれの場合においてもフルオロアルコールの添加により、イオン性分子中のアニオンのドナー性の低下に起因する変化が確認された。 以上より、本研究が提案するフルオロアルコール基集積化戦略は、高機能なアニオンレセプターの開発における新たな指針となり得ることが明らかとなった。
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