研究課題/領域番号 |
19K23628
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
安藤 直紀 名古屋大学, 理学研究科, 特任助教 (80848979)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | ホウ素 / Lewis酸性 / 自己集合 / 配位結合 / ボロール |
研究実績の概要 |
ホウ素を含むπ電子系化合物は,優れた光学特性や電気化学特性をもつことから,発光性材料や電子輸送材料,化学センサーをはじめとする機能性材料への展開が広く進められてきた.しかし,三配位ホウ素の本質的な反応性の高さから,化合物の安定化にはかさ高い置換基の導入が必要であった.そのため,ホウ素化合物の凝集状態での分子集合体の構造制御や機能に関する研究は依然として限られており,発展の余地がある.本研究では,ホウ素まわりを構造固定することにより安定化したホウ素化合物に着目し,その平面性とLewis酸性を切り口に,ホウ素を含むπ電子系化合物の凝集状態での構造制御と機能の開拓を目指す. 本年度は,三配位ホウ素のLewis酸性を活かした集合体の構造制御を実現するための分子系として,反芳香族性を示すボロール構造をもつ平面固定トリアリールボラン誘導体の合成および物性評価を行なった.得られた化合物についてX線結晶構造解析を行なったところ,いずれの化合物も高い平面性をもち,カラム状に積層したパッキング構造をとることがわかった.カラム間の構造は,置換基により分子間の相互作用を調整することで容易に制御可能であった.また,長鎖アルキル基を導入した誘導体を合成し,分光学的手法を用いた自己集合特性の評価を行なっている. 一方で,得られた化合物のLewis酸性を滴定実験により評価したところ,既報の平面固定トリアリールボランと比較して,顕著に高いLewis酸性を示すことを明らかにした.さらに,この高いLewis酸性を活かし,ホスフィンをLewis塩基として用いたLewis酸・塩基錯体の形成にも成功している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基本骨格となる平面固定トリアリールボラン誘導体の合成手法を確立できたことから,今後,種々の置換基やπ電子系を導入した誘導体の合成する段取りができた.また,置換基を導入する位置や種類により,分子配向を制御することがわかってきている.同時に,長鎖アルキル基を導入することで,分子集合特性を明らかにしつつある. また,当初の計画通り,ボロール骨格を導入することで,既報の分子と比較して非常に高いLewis酸性をもつ分子群の創出を達成した.さらに,今回設計した分子がホスフィンとも錯形成が可能であることを見出している. これら置換基が分子配向に及ぼす影響や分子集合挙動,Lewis酸性についての知見をもとに,次年度は,凝集状態での構造制御を指向した展開に着手できると考えている. 以上から,おおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
分子集合体の物性評価および機能の開拓に取り組む.まず,前述のπスタッキングにもとづく集合体の評価を進める.集合体の光学特性に加えて,形状についても精査する.また,より魅力的な物性をもつ集合体を実現するために,π電子系の修飾を行う.一方で,Lewis塩基を用い,配位結合にもとづく集合体の構築を目指す.Lewis塩基や集合体を形成するための条件を詳細に検討する.これらの知見をふまえて,光や熱などの外部刺激による分子集合体の構造制御の可能性を探る.
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次年度使用額が生じた理由 |
合成手法を確立するための条件検討や種々の誘導体の合成に時間を費やしたが,当該研究室で所有していたガラス器具や保管されている試薬を用いることができたため,次年度使用額が生じた. 確立した合成手法を用いて,集合体の物性を追求した骨格を探索する必要があるため,遷移金属試薬をはじめとする試薬購入費として使用する予定である.また,得られた化合物について,当該研究室で所有する測定機器に加えて,機器使用料が発生する共有の測定装置を駆使しながら,物性・構造の評価を進める予定である.
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