これまでに多環式π共役骨格にボロール構造を導入することで,既報の平面固定トリアリールボラン類と比較して,顕著に高いLewis酸性を示す骨格の構築に成功している.この骨格について理論計算を用いて詳細に検討した結果,1) ボロール構造の反芳香族性,2) 多環式π共役骨格内部にボロール構造を組み込んだことに起因するホウ素まわりのひずみが,この骨格の高いLewis酸性の一因であることがわかり,平面固定トリアリールボラン類のLewis酸性を制御するための設計指針を得ることができた.前年度までに得られた結果と合わせて,近日論文発表を行う予定である.また,配位結合にもとづく集合体の構築を目指し,当該骨格にLewis塩基部位を導入した誘導体の合成を進めた.期間内に化合物の合成にはいたらなかったが,今後の合成方針に関する知見を得ることができた. また,本年度は,水媒体中での分子集合体の形成を目指し,新たな基本骨格の構築にも取り組んだ.具体的には,非対称な構造をもち,ホウ素まわりをsp2炭素で完全に架橋した平面固定トリアリールボランを設計・合成した.ボロール構造をもつ平面固定トリアリールボラン誘導体の合成検討の際に得られた知見をもとに,基本骨格を簡便に構築する合成経路を確立した.また,合成前駆体を検討することで,合成後期段階で多様な側鎖の導入を達成した.親水性側鎖を導入した誘導体について集合特性を評価したところ,水媒体中でシート状集合体を形成することを見出した.また,この化合物のLewis酸性は,平面固定トリアリールボランの中でも低いLewis酸性であったが,種々のピリジン誘導体とのLewis酸・塩基錯体が光応答性を示し,外部刺激による集合体の構造制御の実現にむけ重要な知見が得られた.
|