本研究は、広義の癌細胞において発現量が亢進しているWFDC2と結合する未知の結合タンパク質を単離・同定することで、病態との因果関係を明らかにすることを目的としている。この目的を達成するため、アフィニティタグを部位特異的に導入したWFDC2を化学合成法により調製した後、癌細胞に存在する結合タンパク質をタンパク質間相互作用によって単離し、プロテオミクス解析を用いて同定する。 最終年度となる本年度では、前年度によって得られた知見を基に、ビオチン修飾を有するWFDC2を用いて種々の癌細胞株抽出液から結合タンパク質の単離を試みた。ストレプトアビジンビースを用いて単離されたサンプルをSDS-PAGEにより分離して銀染色し、コントロールと比較して特異的なバンドをin-gel消化によって断片化してプロテオミクス解析を行なったところ、その中からペルオキシレドキシンが同定された。しかし、その後再現性良く検出されるに至らなかったため、結合タンパク質の量的確保を目指し、正常マウスの肺組織を使用して同様の検討を行なった。しかし、この解析においても再現性良く特異なタンパク質を単離するには至らなかった。 WFDC2は分子内に8つのSS結合を有するタンパク質であるが、化学合成によって種々の修飾を有するWFDC2が効率良く得られたことは合成化学上意義深いと考えている。一方、WFDC2はプロテアーゼインヒビター様の活性を示すことが以前から報告されているが、近年ではその活性についても否定的な報告がされている。本研究課題ではWFDC2結合タンパク質の同定は叶わなかったが、WFDC2の化学合成をはじめとする研究実績が、WFDC2の真の役割に迫る一助になることが期待される。
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