本年度は、ホウ素ラジカル(ボリルラジカル)の電子移動によるホウ素カチオンの発生、およびこれを利用した大気安定n型単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の開発を目的に研究を行なった。 これまでSWCNTに対して、ビスピナコラートジボラン(B2pin2)と4-シアノピリジン(4-CNpy)の混合により発生させたボリルラジカルを作用させると、ボリルラジカルからSWCNTへの電子移動に基づくSWCNTのn型化が観測された。しかし得られたn型SWCNT膜は一週間程度でn型特性が消失した。そこで本年度は、ジボランおよびピリジンを種々変更することにより、大気安定なn型SWCNT膜の作製を目指した。ジボランとして、テトラヒドロキシジボラン(B2(OH)4)、ピリジンとして4-フェニルピリジン(4-Phpy)を用いてSWCNTの電子ドーピングを検討したところ、各種分光分析からSWCNTへの電子ドーピングが確認された。このことから、ジボランおよびピリジンを種々変更してもSWCNTへの電子ドーピングが可能であることを見出した。さらに、得られたn型SWCNTは50日以上n型特性を示したことから、高い大気安定性と熱安定性を有することが明らかになった。この大気安定性の要因を考察するため、次に分子動力学計算を用いてボリルラジカルとSWCNT複合体の最適化構造を算出した。B2(OH)4はB2pin2に比べて立体障害が小さいことから、B2(OH)4により発生させたボリルラジカルはSWCNTによく近接し、ドーパント分子全体でSWCNTを被覆する描像が観測された。加えてピリジン上のフェニル基とSWCNT間でπ-π相互作用が働き、安定性の向上に繋がったと考察した。 本成果は、「ボリルラジカルドーピング」という新たなキャリアドーピング技術を提供するものであり、半導体工学における新技術として重要な知見であると捉えている。
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