研究課題/領域番号 |
19K23636
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
澤野 卓大 青山学院大学, 理工学部, 助教 (80846303)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | C-H結合活性化反応 / ホスファイト / ボリル化反応 / 遷移金属触媒 / 配向基 |
研究実績の概要 |
申請書に記載した「新規有機触媒/遷移金属触媒によるアルコールのsp3 C-H結合活性化反応」の研究を達成するために、2019年度はまず、目的とする二座型ホスフィナイトーアミド有機触媒の合成に着手した。様々な方法で合成を試みたが、ホスフィナイト部分が水や空気に不安定であるためか合成することが困難であった。そこで、ホスフォナイトとアミドアルコールから、系中で二座有機触媒を発生させることで、アルコールのC-H結合活性化反応を行えないかどうか検討を行った。脂肪族アルコールのボリル化やアリール化を試みたが、目的とするC-H結合活性化反応は進行しなかった。 そこで方針転換を行い、まずは目的とする触媒反応ではなく、中間体の部分構造であるホスファイトのsp3 C-H結合活性化またはsp2 C-H結合活性化反応を確立し、そこで得られた知見をもとにより挑戦的なヒドロキシ基を配向基としたC-H結合活性化反応を達成しようと考えた。C-H結合活性化反応の中でも、比較的温和な条件で反応を行えることから、まずはトリアリールホスファイトのC-H結合活性化によるボリル化反応に着目して研究を行った。イリジウム触媒とビピリジン配位子を組み合わせて反応を行うことで、収率に改善の必要があるがオルト位選択的にボリル化反応を進行させることができた。またこの際、ホスファイトのままでは単離を行うことが困難であったため、反応後にプロトン化させることでフェノールの状態で単離し、構造を同定することができた。加えて、コントロール実験を行った結果からボリル化反応はホスファイトが配向基となって進行し、反応中にフェノールはほとんど遊離していないことを確かめた。 以上のように、目的反応を達成するための前段階となるホスファイトのボリル化反応において成果を上げることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要でも述べたように、現在のところ目的とする二座型ホスフィナイトーアミド有機触媒の合成が実現できておらず、アルコールのsp3 C-H結合活性化を経た分子変換反応を達成できていない。挑戦的な研究テーマであることから、参考にできる過去の研究例が限られていることが目標の達成を困難にしていると考えられる。そこで、目的とする反応の中間構造に近い、ホスファイトの不活性C-H結合活性化を経た分子変換反応に現在取り組み、得られた研究成果を基盤としてアルコールのsp3 C-H結合活性化反応を達成しようと考えている。現在のところ、収率に改善の必要があるものの、目的化合物を得ることができたことから、一定の成果が得られたと言える。 ホスファイトのC-H結合活性化反応自体もまた魅力的な研究テーマであり、トリアリールホスフィンのC-H結合活性化反応において、近年いくつかの興味深い研究成果が報告されているものの、ホスファイトのC-H結合活性化反応においては研究は遅れている。また、ホスフィン化合物は有機合成化学、有機金属化学、材料化学においても重要な役割を果たしており、その観点においても意義深い研究と言える。 以上のように、目的とするアルコールのsp3 C-H結合活性化反応は現在のところ達成できていないものの、実現するための基盤となり、またその研究自体も意義深いトリアリールホスファイトのボリル化反応について一定の成果を得ることができたことから、現在までの進捗状況をやや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
目的としているアルコールのsp3 C-H結合活性化反応は現在のところ達成できていないものの、その足掛かりとなるトリアリールホスファイトのC-H結合活性化によるボリル化反応において一定の成果を得ることができている。そこで、まずはこのボリル化反応について反応条件の精査を行うことで、収率および位置選択性の向上を行い、目的反応に関する知見を得ていく。イリジウム触媒とビピリジン配位子を組み合わせることで、トリアリールホスファイトのボリル化反応がオルト位選択的に進行することを見出しているが、ロジウムやルテニウムなどの他の金属およびビピリジン以外の配位子も検討し、ホスファイトのリン部分を配向基とした場合にどのような組み合わせが有効であるかについて知見を深めていく予定である。 また、得られた研究成果を基に、sp3 C-H結合活性化によるボリル化反応に展開していき、さらにボリル化反応以外の興味深い化学変換反応に着手していく予定である。具体的には、ハロゲン化反応やアリール化反応などの重要でかつ興味深い反応が挙げられる。 最後に、基質をホスファイトからアルコールに移行し、本来目的としていたヒドロキシ基を配向基とするC-H結合活性化反応に取り組んでいく。目的とする二座有機触媒を安定に単離することは困難であると予想されるため、リン部位とアミド部位から二座有機触媒を系中で発生させる方法について、NMRやMSなどの分析方法を用いて詳細に検討を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
<次年度使用が生じた理由> 研究状況を考慮し、研究活動スタート支援の1年半という研究期間の中で、提案した研究の目標を達成し、円滑にかつ効率的に研究を進行させることを目的とし、2019年度の助成金の一部を2020年度に使用したいと考えた。また、極一部ではあるが、COVID-19の影響により、先の予定が見通せない時期があったことから、当初予定していた必要な物品の購入を次年度に持ち越したことも次年度使用が生じた理由として挙げられる。 <使用計画> 助成金の使用の内訳としては、当初予定していた通りその大部分を物品費に充てる予定である。具体的には、提案した研究テーマを推進させるために必要な試薬やガラス器具などを研究状況に合わせ、効率的に購入していく予定である。加えて、申請した研究テーマにおいて、NMRやHRMS、IRなどの得られた化合物の解析を行うための測定機器は必須であり、これらの測定機器を使用するために必要な物品を購入する予定である。また、50万円を超えるような高額な物品の購入は予定していない。
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