研究課題/領域番号 |
19K23642
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
佐野 航季 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (20845763)
|
研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
|
キーワード | 無機ナノシート / 磁場配向 / ソフトマテリアル / 時空間パターン / 非平衡 / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
生体内では、たんぱく質などの動的ナノユニットが3次元秩序構造へと自己集合して協働することで、個々の小さくて単純な動きが巨視的で精緻な動きへと繋がっている。ごく最近、水に分散した数十億枚もの無機ナノシートの集合構造に対して、特定の条件下で化学的刺激を与えると、これらのナノシートが協働的に運動する結果、空間的かつ時間的に秩序を有する巨視的な波が発生することを見出した。本研究の目的は、この伝播波の基礎的理解とその自在制御のための要素を探索することである。 本年度は、伝播波の構造解析およびメカニズム解明を重点的に行なった。具体的には、各種顕微鏡観察を行うことによって、無機ナノシートが形成する波構造を詳細に解析した。まず、偏光顕微鏡観察によって、ナノシートがマクロスケールでどのような配向状態をとっているかを明らかにし、リタデーション測定によってナノシートの配向角等の情報を見積もることに成功した。次に、走査型電子顕微鏡観察によって、ナノシート1枚1枚がナノスケールでどのように集合しているかについての知見を得た。最後に、以上で得られた知見と共焦点レーザー走査型顕微鏡観察の結果を統合することで、ナノシートの波構造の3次元的情報を得ることができた。 また、サーモトロピック液晶の分野で知られているヘルフリッヒ変形と同様の議論を行うことで波の発生メカニズムを説明することに成功した。さらに、この知見を利用することで、発生する波の波長を精密に制御することも可能となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は伝播波の詳細な構造解析と発生メカニズムの解明を行なった。波の構造解析に関しては、各種顕微鏡観察によってナノシートの集合構造の3次元的な情報を得ることに成功しており、波の発生メカニズムも定量的に議論することができている。これは当初の計画通りであり、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、ナノシート伝播波の動的性質に重点を置き、波の伝播速度の制御と物質輸送機能への応用を目指す。本年度の成果によって、系中の化学物質の拡散に伴って波の伝播が引き起こされていることが示唆されたため、次年度は化学物質の種類や濃度を変えることで波の伝播速度への影響を調べる。また、ナノシート伝播波において、ナノシートの配向が経時で周期的に変化していることに着目し、ナノ粒子やマイクロ粒子などの輸送機能についても検討を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスによる学会中止などの影響で、当初予定していた見積もりより若干の少額となった。この差額は、次年度の試薬購入費用に充てたいと考えている。
|