今年度は新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、研究室への出入りが厳しく制限され予定していた実験が行えなくなった。そこで実験研究に代わり、本研究の根幹をなす微小電極におけるメディエータ型酵素電極反応(MET反応)の解析式導出を行った。
酵素活性が非常に高い場合、微小電極を用いたMET反応の電流値は酵素活性に依存しないことが知られている。しかしながら、この系は球形拡散と酵素反応が組み合わさった非常に複雑な系であるため、その電流応答は理解できていない。解析式はその式の形から現象の理解を助けるとともに、時間のかかる数値シミュレーションを行うことなく反応が予測できる。
微小電極として半球電極を用い、酵素活性が非常に高い(メディエータ濃度に対するミカエリス定数が十分小さい)条件の下、定常状態近似した拡散方程式を解くことで解析式を導出することに成功した。解析式より、メディエータ濃度は球形拡散に由来する成分と、酵素反応によって消費(もしくは生成)される成分の2つで構成されていた。電流はI1-I2で表された。I1はすべての基質が電極近傍で反応した場合の電流であり、球形拡散によって制御される限界電流と一致した。I2は電極近傍に残った基質に由来する電流と解釈した。 さらに解析式から、この系を用いたバイオセンサの性能(基質濃度に対する電流の線形範囲)を向上させる条件を見出した。具体的には、基質の拡散係数と基質に対するミカエリス定数が小さく、メディエータの拡散係数と微小電極半径が大きい場合に電流の線形範囲は拡大する。
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