本研究では、蒸気の吸脱着に伴って可逆的な色や発光色変化を示す性質である、ベイポクロミズムについて、蒸気応答の多段階化を目的としている。応答を多段階化することで、従来は困難であった蒸気の量的な情報(蒸気圧)が得られると期待できる。目的を達成するためには、蒸気を吸着したという情報を色や発光色変化として可視化する部位と、ある任意の分子を、異なる量取り込んだ複数の結晶構造を安定化することが必要となる。本研究では、蒸気吸着情報を可視化するために、周囲の環境に鋭敏に応答し得る白金(II)錯体を用い、複数の結晶構造を安定化する方法としてハロゲンを修飾した配位子を用いて新規錯体を合成し、目的の達成を試みた。 前年度に得た知見をもとに、最終年度はハロゲン化した配位子を有する中性白金(II)錯体の合成を行い、その外部刺激応答性について検討を行った。錯体は合成時には黄色固体として得られたが、再結晶によって橙色固体へと変化した。これらの状態は、X線回折測定及び熱重量分析からいずれも無溶媒和物であるにも関わらず結晶構造が異なる、結晶多形である事が分かった。橙色固体については単結晶X線構造解析に成功しており、金属間相互作用と水素結合、及びハロゲン間相互作用が確認された。更に、黄色固体は、すり潰す事によって橙色固体と同様の結晶構造へと転移するとともに、特定の有機溶媒蒸気に曝露することで黄色状態へと戻る、ベイポクロミズムを示す事が分かった。 以上のように、最終年度はハロゲンを有する中性白金(II)錯体の合成を行い、その結晶構造及び外部刺激応答性を明らかとした。合成した錯体が結晶多形を示すことから、ハロゲン修飾は目的とするベイポクロミズムの多段階化にとって有望であると考えられる。
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