研究課題/領域番号 |
19K23653
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
渡邉 美寿貴 中央大学, 理工学部, 助教 (60847987)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 結晶性リチウムケイ酸塩 / 蛍光特性 / 二酸化炭素吸収能 / 表面欠陥 / ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
本研究は、リチウムケイ酸塩(LSO)の蛍光特性を利用して、LSOの表面欠陥と二酸化炭素(CO2)の吸着の相関性を定性的・定量的に判断する評価法を確立することを目的としている。CO2吸着に伴う蛍光特性の変化を観察することで表面欠陥とCO2の吸着の関係性を定量的・定性的に評価しようとする今までにない試みである。 本年度は、各種LSO粉末(Li4SiO4, Li2SiO3、Li2SiO5、Li8SiO6)を固相法や水熱法などの溶液法によって合成し、それら粉末の結晶構造解析、発光特性や光学特性評価、CO2吸収・放出能評価、粒子サイズや粒形の観察など、基本的なキャラクタリゼーションを行った。100%CO2ガス流通下で各種LSO粉末とCO2を100℃から1000℃までの温度で反応させ、反応後の試料の発光特性を測定したところ、Li4SiO4粉末とCO2の反応において、反応温度が上昇するにつれてCO2吸着量が増加し、そのCO2吸収量の変化に伴い、発光スペクトルが大きく変化することが明らかとなった。特に、400℃でCO2と反応させた場合にその発光強度が大きく増大し、最大発光ピークは450nm付近から520nm付近へと高波長側へと大きくシフトしたことを確認した。Li4SiO4粉末のCO2の吸収量は700℃で最大となることが知られているが、今回観測された700℃以下における大きな発光特性の変化は、CO2の吸収による化学反応以外に、表面へのCO2吸着によりその表面欠陥などの表面状態が大きく変化していることを示唆している。 現在は、CO2吸着とLSO表面状態の相関性の解明に向け、欠陥状態と発光特性を中心とした各種測定をより詳細に実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本申請で作成する励起発光スペクトル測定用特注ガラスセルユニットは、真空中で熱処理を行い、そのまま大気暴露することなく試料にCO2を吸着させるため、また、部品に石英ガラスを必要とするため、高度なガラス溶接技術が必要となり、専門のガラス業者に依頼する必要がある。また、セルを含めた反応系は大掛かりになるため、ガラス業者に依頼する作業は申請者が所属する大学内の研究施設で行うよう依頼する必要がある。さらに、装置系を組むために数人で作業を行う必要がある。しかしながら、令和2年初めよりのCOVID-19感染拡大に伴い、感染拡大予防の観点から、上記の依頼や作業が困難であるため、ガラスセルユニットの完成が遅れているのが現状である。このような状況のため、進捗状況に関しては、該当する区分を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度の実験において得られた重要な知見の中の一つに、100%CO2ガス流通下でのL4SiO4とCO2の反応において、反応温度の上昇にしたがいCO2吸着量が増加し、そのCO2吸収量の変化に伴い、発光スペクトルが大きく変化したことが挙げられる。しかしながら、それらの反応は開放系での反応であるため、大気中のガスの影響は加味されていない。LSOは室温下でも大気中のCO2ガスを吸収する能力を持つため、試料に吸収させるCO2の量を制御した状態で発光スペクトル測定などを行うためには、試料を真空加熱により前処理することで表面吸着物質を除去した後、そのまま大気中に暴露することなくCO2を吸着させた状態で密閉する必要がある。 本年度は、そのような装置系を実現するために考案した、励起発光スペクトル測定用特注ガラスセルユニットを完成させる。真空中で加熱処理を行い、粒子表面に吸着している水などを除去し、大気暴露することなくCO2を吸着させる。CO2平衡圧を変えることでCO2吸着量を変化させ、CO2吸着量毎の蛍光特性を評価する。CO2ガスを吸着させた試料の蛍光特性を明らかにし、欠陥の種類や欠陥密度に関する測定結果と合わせて、それらの相関性を明らかにする。当初はすべてのLSOに関して測定を行う予定であったが、平成31年度の実験において、顕著な変化が見られたLi4SiO4およびLi2SiO3粉末に特に着目して詳細な測定を行う予定である。さらに、欠陥の種類や密度が困難であるため、まず、点欠陥に絞って解析を行う予定である。また、特注ガラスセルの作製が上記の理由で遅れているため、当初は業者に発注予定であったガラスの溶接などを自ら行い、装置の組み立てを簡便化することを検討する。高い技術を要する溶接などが必要な箇所は、代替部品を用いるなどの手段で対応し、セルユニットの完成および正確な測定が可能な状態を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
励起発光スペクトル測定用特注ガラスセルユニットおよび反応装置系の作製がCOVID-19の感染拡大に伴い滞っているため、平成31年度においてそれらの作製費用に当てる予定であった予算を繰り越した。したがって、次年度使用額は、本来平成31年度に使用予定であったガラスセルユニットおよび反応装置系の作製のために使用予定である。
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