本研究実績として、圧力印加時のピコ秒発光寿命の光学系を構築したことが挙げられ、それにより以下の点が明らかになった。 圧力印加時のCdSeとCdTe QDsの光物性がどのように変化するかを定常光の発光スペクトル測定により行った。圧力を印加するにつれて、CdSe、CdTe QDsの発光スペクトルは短波長側にシフトした。この時の印加圧力を横軸、常圧時と圧力印加時の発光エネルギーの差を縦軸にすると、CdTe QDsの方がCdSe QDsに比べて圧力への応答が敏感であることが分かり、圧力係数はCdSe、CdTe QDsはそれぞれで28.8、53.8 meV/GPaであった。この短波長シフトは、圧力印加による粒径の変化ではなく、バルクのバンドギャップの変化に起因すると考えている。バルク材料に圧力を印加すると、体積減少に伴い、近接する原子の距離が近くなることから重なり積分が大きくなり、そのバンドギャップが広くなることが報告されている。このバルク材料のバンドギャップの圧力係数は既報では、CdTeの方がCdSeより大きいため、得られている圧力係数の傾向と同じであり、その値も同程度である。 圧力印加時のピコ秒発光寿命測定も行った。圧力を印加することで寿命が短くなっており、CdTe QDsでは、長寿命の成分が観測されるようになった。結晶構造が4配位の閃亜鉛構造では直接遷移半導体であるが、圧力を印加すると6配位の岩塩構造に構造相転移し、間接遷移半導体となる。CdTe QDsの4.1 GPaの圧力印加では閃亜鉛構造と岩塩構造の中間領域となることで、間接遷移半導体由来の長寿命成分が観測されたと考えている。 今後は、今回構築した光学系の知見を基に、圧力印加時のフェムト秒過渡吸収分光測定の光学系を構築中である。この光学系が完成することで多励起子生成や中間バンド形成といった光学測定が可能となる。
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