従来の頻度論的なモデリング手法を一新して,ベイズ統計による細菌挙動の予測を行う。ベイズ統計を用いることで,細菌個体の増殖・死滅のタイミングを確率として表現可能とする。確率を用いたモデルングにより,細菌による食中毒の発生を確率として捉えることを補助できる。本研究は,100年前に提案された平均値に基づく頻度論統計からベイズ統計へと計算手法を根本的に変える挑戦的な研究である。ばらつきを包括的に扱う試みはカビやウイルスによる健康被害の計算にも応用可能であり関連する研究分野への波及効果が高い。 最終年度では,初年度で作成した細菌挙動のベイズ統計による予測について英文誌に論文投稿をする準備をした。また,初年度では培地を用いた基礎研究だったのに対して,最終年度では複数の食品(魚,野菜,肉類)でのListeria monocytogenesの増殖および死滅の予測を行った。食品ごとで細菌の増殖速度の違いが従来の研究から指摘されており,細菌を取り巻く環境と細菌挙動は複雑な関係である。機械学習を用いることで,食品と細菌挙動の関係性を推測することができた。食品での細菌挙動を予測できたため,研究の実用性が現実味をおびてきた。今後は,ベイズ統計と機械学習の双方を用いることで,食品といった複雑な環境と細菌数挙動のばらつきに対応したモデルを作成していきたい。
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