研究課題/領域番号 |
19K23656
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤田 翔貴 東北大学, 農学研究科, 助教 (70845099)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | カーボンカタボライト抑制 / エンドサイトーシス / グリセロール輸送体 / 出芽酵母 / アレスチン |
研究実績の概要 |
出芽酵母グリセロール輸送体Stl1のグルコース依存的な分解制御機構の解明を目指した。Stl1はグルコース依存的に分解されることが報告されいる。本申請研究以前に行った研究で、Stl1のC末端領域の欠失がグルコース依存的な分解が抑制されることを明らかとしていた。本年度は、そのC末端領域中の具体的にどの領域が分解に重要であるのかを明らかにするために、部位特異的にアミノ酸置換を導入した変異体の解析を行った。その結果、F532,G533,E534の3つのアミノ酸残基がグルコース依存的な分解に重要であることが明らかとなった。また、興味深いことに、Stl1はグルコースシグナルの入力により一時的に原形質膜上から取り除かれる一方で、培養を続けるとグルコース残存下にも関わらず再び原形質膜上に新たなStl1が局在することが観察された。すなわち、Stl1の分解誘導は、単にグルコースが存在する環境ではなく、グルコースが枯渇した環境(呼吸によるエネルギー生産)中へグルコースが流入してきた際(呼吸から発酵への大規模な代謝変換期)に生じることが示唆された。このStl1のグルコース依存的な分解は、ユビキチン化を介したエンドサイトーシス依存的に行われる。Stl1のグルコース依存的なユビキチン化は、ユビキチンリガーゼRsp5とそのアダプタータンパク質Rod1によって制御されている。そこで、グルコースシグナル入力後のRod1の翻訳後修飾状態を経時的に解析したところ、グルコースを添加してから十数分後と2時間後では修飾状態が異なることが明らかとなった。これは、Rod1の標的認識活性に翻訳後修飾の状態が重要であることを示唆している。また、Rod1が活性化していると考えられるグルコース存在下でも、その修飾状態の違いによって標的となる輸送体の種類やそれを認識する効率(分解速度)が異なっている可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、目的としていたグルコース依存的な分解を回避するグリセロール輸送体Stl1変異体の取得を達成できた。また、Stl1はグルコースシグナルの入力とともに一時的に分解されるが、その後合成されたStl1はグルコース不活性化を回避するという予想外の現象も発見した。さらに、この現象の解析を進めることで、呼吸によるエネルギーを獲得している環境中にグルコースが流入してきた条件下と、ある程度グルコース培養(発酵によるエネルギーを獲得)を続けている条件下では、同じグルコース存在下とはいえRod1の翻訳修飾状態が異なることが明らかとなった。これは、本申請研究の目的である、グルコース不活性化により制御される膜輸送体類の分解キネティクスの違いを理解するために重要な結果であると考えられる。一方で、当初予定していたStl1を制御する浸透圧ストレスシグナルとのクロストークまで研究を着手することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究によって、原形質膜上に安定に局在するグリセロールトランスポーターStl1変異体を取得した。今後は、この変異体とRod1の相互作用を解析することで、変異体の分解抑制がRod1からの認識が阻害されたため起きているのか検証する。さらに、この変異体発現株を使用し、Stl1がグルコース依存的に分解制御を受ける生理学的意義について研究を進める。具体的には、この変異体発現株の生育や全遺伝子の発現状況を正常な株と比較する。 また、前年度明らかとしたアレスチン様タンパク質Rod1の修飾状態の違いをより詳細に解析する。特に、Rod1へのユビキチン化やリン酸修飾状態の違いに焦点を絞り解析する。これにより、呼吸から発酵への移行期と定常の発酵状態とでのRod1によるStl1の認識機構の違いを解析する。さらに、現時点で進行が遅れている浸透圧ストレス応答(Hog1シグナル伝達経路)がStl1分解へ及ぼす影響に関して解析を開始する。まずは、グルコース添加後のRod1の翻訳後修飾状態を高浸透圧条件の有無やHog1シグナル伝達経路関連因子破壊株を用いて解析する。Rod1の修飾状態が異なる場合、その修飾部位をMS解析やRod1の部位特異的変異体を用いて同定する。また、その修飾状態が標的の認識に必要であるのかRod1のアミノ酸置換変異体を用いて検証する。以上の解析を通して、グルコースだけでなく浸透圧ストレスも含めた複数のシグナルによるStl1のクロストーク制御機構を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行により、年度末に研究成果を発表予定であった酵母研究若手会および参加予定であった日本農芸化学会が中止となり、参加費や旅費として予定していた経費を消化できなかった。同様の理由で、年度末に実行予定であった研究を中断したため、使用予定であった試薬類を購入しなかったため次年度使用額が生じた。今回生じた次年度使用額は、年度末に実行予定であった研究や今後計画している研究を再開する際に使用、消耗する試薬類の購入費として使用する。
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