細胞を取り巻く状況に応じて不要な輸送体を選択的に分解することは、シグナル受容や栄養源の取込みを調整、最適化するために必要な機構である。種々の栄養源輸送体の細胞膜上からの除去は、ユビキチンリガーゼによるユビキチン化が引き金となる。このユビキチン化はアレスチン様タンパク質群が状況に応じてユビキチンリガーゼを選択的に標的へとリクルートすることで制御されている。前年度は、グリセロール輸送体Stl1の分解は、基質であるグリセロールの有無によらずシグナル入力(グルコースの環境中への流入)依存的に分解されていることを示唆する結果を得た。グリセロールの細胞内での合成や細胞外からの蓄積は、高浸透圧条件下に適応するために重要な機構である。グリセロール輸送体であるStl1は高浸透圧下で、その遺伝子発現量が上昇することが知られている。そこで、本年度はStl1が浸透圧変化に応答した分解制御を受けるのかを検証した。Stl1をグルコース非存在下で人為的に発現させ、経時的に浸透圧を変化させたところ、顕著な分解は認められなかった。すなわち、Stl1の分解は浸透圧の変化によって誘導されないことが示唆された。また、前年度に引き続き、Stl1が分解されないことで生じる細胞へ不利益(Stl1がグルコース依存的に分解される意義)を検証するため、原形質膜上に安定して局在するStl1変異発現株と野生株を用いて、いくつかの浸透圧ストレス条件下での生育比較を行なった。しかしながら、 これまで検証した条件下では生育に顕著な差は認められなかった。
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