本研究は、天然抗菌物質に対する糸状菌の一酸化窒素(NO)産生を介した応答分子機構を明らかにすることを目的としている。前年度は、ヒト病原糸状菌Aspergillus fumigatusにおいて、過酸化水素、高温、および植物や微生物が産生する天然抗菌物質(ファルネソール、チモール、シトラール、ピオシアニンなど)の処理によって細胞内にNOと酸化ストレスマーカーであるROSが生成することを見出した。NO消去剤とROS消去剤をファルネソールと同時に処理すると抗菌作用が部分的に減弱したことから、ファルネソールの抗菌作用がNOおよびROSの生成と関与することが示唆された。本年度は、ファルネソールに対するA. fumigatusの詳細な応答を明らかにするため、RNA-seq解析およびRT-qPCR解析を行った。その結果、ファルネソール処理時に、ABCトランスポーターをコードするcdr1Bおよびその転写因子をコードするatrRが顕著に発現上昇した。cdr1B遺伝子破壊株(Δcdr1B)は、ファルネソールに対して野生株よりも高感受性を示したため、ファルネソール応答におけるCdr1Bの重要な機能が示唆された。また、Δcdr1Bは、当化合物処理時の細胞内に蓄積するファルネソール量が野生株よりも高く、ファルネソールの排出にCdr1Bが関与することが示唆された。A. fumigatusにおいてCdr1Bおよび AtrRは人工合成アゾール薬剤への耐性に関与することが知られており、本研究が新規な抗真菌薬の開発に役立つことが期待される。
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