研究実績の概要 |
前年度までに、長期安定性を有する超好熱性アーキアPyrobaculum aerophilum 由来ピロロキノリンキノン依存性グルコース脱水素酵素(PQQ-GDH)の分子表面に存在するリシン残基に対してアミノ基反応性メディエータ(PES)を修飾することで、外部からメディエータを添加する必要のない人工的な直接電子移動型酸化還元酵素の作製に成功している。2020年度は、PQQ-GDHの分子表面に存在するリシン残基の中でPQQからの電子を受け取る可能性のあるPQQに近い5つのリシン残基(K76, 258, 319, 325, 361)に焦点を当て、遺伝子工学的手法を用いて各リシン残基をアルギニンへ置換させPESを修飾不可とした変異体を作製し、PQQ-GDHと電極間の電子伝達に寄与する可能性のあるリシン残基について検討した。その結果、5種のリシン置換変異体の内で3種の変異体(K258, 319, 325)においてグルコースの酸化に基づく電流応答の減少が確認された。そのため、PQQ-GDHにおいてPQQから電極への電子伝達には「PQQ-PES(K258)-PES(K319)-電極」という経路と「PQQ-PES(K325)-PES(K319)-電極」という経路の2つが推測された。そこで、さらなる電子伝達効率向上による電流密度の向上のため、K258とK325の間へPES修飾部位となるリシン残基の変異置換を行った。その結果、リシン残基を増加させた変異体は野生型と比較してグルコースの酸化に基づく電流密度が約2倍増大した。PQQから電極への電子伝達経路と考えられる領域へPESの修飾部位となるリシン残基を追加することで、PQQから電極への電子移動効率が向上したためだと考えられる。
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