研究課題/領域番号 |
19K23665
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高瀬 隆一 京都大学, 農学研究科, 助教 (10842156)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 膜小胞 / 窒素固定細菌 / X線結晶構造解析 / 走査型電子顕微鏡 / 蛍光顕微鏡 / プロテオーム解析 |
研究実績の概要 |
近年、グラム陰性細菌が産生するエクソソーム様の細胞外膜由来膜小胞(outer membrane vesicle, OMV)が細菌の環境適応や他の微生物・宿主との相互作用に重要な役割を果たすことが明らかになってきた。当研究室においてもグラム陰性窒素固定細菌Azotobacter vinelandiiの産生するOMVにアルギン酸が内包され、防御形態(シスト化)に関与することを見出している。しかし、OMVの形成機構やその他の機能については不明な点が多い。そこで、A. vinelandiiの産生するOMVに着目し、その形成機構と機能について明らかにすることを目的とした。 既に、精製OMVに含まれるタンパク質のN末端シーケンス解析から、OMVに二種類のタンパク質(機能不明Avin_16040とべん毛形成Avin_27700)が含まれることを明らかにしていたが、各遺伝子破壊株を育種し、それらのOMV形成への影響を調べた。電子顕微鏡解析の結果、野生株と比較してAvin_16040破壊株では複数の細胞が融合したような波打った荒い表面形状が観察された。この原因として、Avin_16040の欠損により細胞膜の融合が誘起された可能性が考えられる。また、培養液から細胞をフィルター処理により取り除き、脂質をNile redを用いて染色し、蛍光顕微鏡で観察した結果、野生株と比較してAvin_27700欠損株の培養液から多量のOMV様脂質構成物質が分泌されていた。 Avin_16040はそのホモログタンパク質も含め、立体構造は未報告であるが、立体構造から機能の類推を行うことを目的としてX線結晶構造解析を進めている。また、OMV内包全タンパク質をプロテオーム解析により同定した結果、上記タンパク質二種類を含む641種が含まれていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
窒素固定細菌Azotobacter vinelandii由来OMVの①形成機構と②機能を解明するため、以下の成果を得た。 ①のOMV形成機構について、当研究室でA. vinelandii由来OMVに多量に含まれることを見出していた二種類のタンパク質(機能不明Avin_16040とべん毛形成Avin_27700)の膜小胞への関与を明らかにすることが初年度の大きな目的の一つであったが、既に両遺伝子破壊株の育種と細胞膜の変形への影響を電子顕微鏡と蛍光顕微鏡を用いて明らかにした。さらに、ゲノム中のAvin_16040近傍に位置する8種類の機能不明遺伝子も膜小胞の形成に関与すると考えられるが、これらの遺伝子破壊株の育種も進行中である(その内の一つであるAvin_16100は破壊株取得済み)。また、OMVの形成における能動的な細胞膜の切断は、エンドサイトーシスなどと同様のエネルギー消費型のタンパク質GTPaseが関わると予想し、既にA. vinelandiiのゲノム中に含まれる7種類の機能不明GTPase遺伝子破壊株の育種も進行中である。今後は、得られた遺伝子破壊株を用いて、各遺伝子の膜小胞形成への影響を調べる予定である。 Avin_16040のX線結晶構造解析を行い、立体構造から機能を類推することを目的とし、既にタンパク質結晶を取得した。 ②のOMVの機能について、初年度はA. vinelandii由来OMVを精製し、プロテオーム解析に供することで、含まれるタンパク質から機能を推定することを試みた。その結果、Avin_16040とAvin_27700を含む641種と多種のタンパク質が同定された。その中には①で着目した機能不明GTP加水分解酵素の内の一つであるAvin_45830が含まれていることを明らかにした。 以上より、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
窒素固定細菌A. vinelandiiが産生するOMVの①形成機構と②機能を明らかにするため、以下の予定で研究を推進する。 ①のOMV形成機構について、A. vinelandiiから産生されたOMVのみを観察するため、既にOMVに含まれることが明らかになっているAvin_16040遺伝子にGFP遺伝子を融合させ、OMVをGFPにより蛍光標識し、蛍光顕微鏡で観察する。本合成遺伝子を用いて、これまでに育種してきた遺伝子破壊株に加え、Avin_16040近傍の機能不明遺伝子や、機能不明GTP加水分解酵素遺伝子破壊株を用い、各遺伝子のOMV形成に果たす役割の詳細を明らかにする。 既に結晶を得たAvin_16040をはじめとして、細胞膜形成への影響が認められた遺伝子産物(タンパク質)のX線結晶構造解析を行い、立体構造から機能を類推する。 ②のOMVの機能について、A. vinelandii由来OMVに加え、グラム陰性細菌Bacteroides thetaiotaomicron由来OMVのプロテオーム解析を行っているが、両者の結果を比較し、A. vinelandiiに特有のタンパク質に着目し、A. vinelandiiのOMVがもつ特徴的な機能について予測する。また、両OMVに共通して含まれるタンパク質はOMV形成に必須である可能性も考えられる。特徴的、あるいは共通するタンパク質について、当該タンパク質をコードする遺伝子破壊株を育種し、①で示した手法でOMV形成への影響を評価する。 さらに、A. vinelandiiは窒素固定細菌であるため、OMVにも窒素化合物が含まれることが期待される。そこで精製したOMVに含まれる窒素化合物等の低分子の定量や、精製したOMVを植物に直接添加した際の植物の生育への影響を調べることで、窒素化合物に着目した新たなOMVの機能の同定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に参加を予定していた学会が新型コロナウイルスの影響で中止となったため、旅費を使用しなかったため。 未使用分は次年度のプロテオーム解析などの外注費用として使用する計画である。
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