研究実績の概要 |
グラム陰性細菌が産生する細胞外膜由来膜小胞(outer membrane vesicle, OMV)は種々のタンパク質、核酸、化合物を内包し、様々な生理活性を示す。しかし、OMVの普遍的な形成機構は不明な点が多い。本研究では、窒素固定グラム陰性細菌Azotobacter vinelandiiの産生するOMVに着目し、OMVの形成に関わる分子機構を見出すことを目的とした。 A. vinelandiiのOMVに含まれるタンパク質をプロテオーム解析により同定した。特に多量含まれていた機能未知タンパク質Avin_16040について、その遺伝子破壊株を育種した。遺伝子破壊株は野生株と同等の生育を示したが、走査型電子顕微鏡により観察した結果、複数の細胞が融合したような形状が認められた。従って、Avin_16040は細胞膜の融合に関わることが示唆された。Avin_16040と一次構造上相同性を示すタンパク質の立体構造は未解明であり、その機能について手がかりを得るため、組換えタンパク質を用いたX線結晶構造解析を行った。分解能2.09オングストロームで良好なデータを取得し、全体の71%にあたるN末端側領域の予測構造を得た。また、OMV形成におけるエネルギー消費モデルに基づき着目したGTPase遺伝子(avin_45830)の破壊株は、細胞の長さが野生株と比較して5倍以上となったことから、本遺伝子は細胞膜の形成に関わることが示唆された。 以上の結果により、窒素固定細菌A. vinelandiiの細胞膜融合にはOMV内包機能未知タンパク質Avin_16040が重要な役割を果たすことを明らかにした。得られた成果はグラム陰性細菌によるOMV形成機構の解明、並びにOMV形成量の制御を可能とする基盤技術の開発につながることが期待される。
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