研究課題/領域番号 |
19K23668
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
川上 寛子 秋田県立大学, 生物資源科学部, 助教 (70772359)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 地衣由来培養物ライブラリー / 地衣内生菌共培養系 / キサントン生産 |
研究実績の概要 |
地衣類は1つの地衣体内に複数の微生物が存在する共生生物で、有用な二次代謝物を産生する。この二次代謝は地衣体内の化学コミュニケーション機構を介して行われると考えられているが、そのメカニズムはわかっていない。本研究では「キサントン含有地衣類をモデルとした化学コミュニケーション機構の解明」を目的として、キサントン含有地衣類から可能な限り多くの構成微生物を分離培養する。さらに、分離菌株が産生する代謝物を分析した後、in vitroで共生状態を再現した後、一次及び二次代謝物や、発現が促進される生合成遺伝子を網羅的に解析する。 これまで、Pertusaria laevigandaの他、Pertusaria glauca、Pyxine endochrysina、Pyxine subcinereaを組織培養し、それぞれ約150から200株の培養株を得た。培養株にはP. laeviganda及びP. glauca由来の地衣菌や藻類の分離培養できた。本研究では、目的代謝物を生産可能な共培養株の構築が非常に重要な段階であるが、その実験系構築のための培養株ライブラリーを得た他、今後有用物質生産に応用可能な菌株を得ることができた。 また、P. laevigandaと同属の地衣類由来の緑藻とPtsLaを共培養し、それらの抽出物について一次代謝物と二次代謝物を分析した。その結果、PtsLa、緑藻及び共培養株の3検体の解析では合計291個の一次代謝物が検出され、35個の代謝物が共培養株で高生産された。また、PtsLaが主要に産生する二次代謝物 Norlichexanthone(NL)の産生量は、PtsLaと共培養株間で差はなかった。これまで共培養株の代謝物を網羅解析した例はなく、新規性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
外部に受託解析を依頼した一次代謝物の解析は順調に進んでいるが、二次代謝物の解析が遅れている。本研究は共培養株が産生するNL関連物質が重要であるが、その化学構造を解析するための質量分析計や核磁気共鳴装置などの機器に故障があり、非常に遅れている。そのため、本研究の中心となる化学コミュニケーション機構に関する有力なデータが得られていない。今年度は、それら機器が復旧しつつあるので、NL関連物質の化学構造決定に注力し、さらには関連する生合成遺伝子の発現量の解析にも着手する。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、遅れが見られる二次代謝物の解析を主に進める。具体的には、PtsLaや分離培養した地衣菌と藻類の共培養系を構築し、抽出物を得る。抽出物からターゲットのNL関連物質を単離し、質量分析計や核磁気共鳴装置で解析し、化学構造を決定する。NL関連物質を産生している株と非産生株を材料に用いてトランスクリプトーム解析を進め、二次代謝に関わる遺伝子の発現量を比較し、化学コミュニケーションに関わる候補遺伝子を推定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の出産に伴う休暇を得たため、次年度に研究助成を延長した。そのため、2021年度に研究可能な予算として繰り越した。当該予算は、二次代謝物の解析に使用する試薬や、分析バイアルなどの物品費として使用する。
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