ニホンカモシカは、長野県内や近隣の地域には、4つの保護地域と7つの地域個体群が分布しており、今後の全国のカモシカの保護・管理を進める上で、本地域の保全遺伝学的研究の情報は重要と考えられる。本州の中央部に位置する各地域個体群の遺伝的構造を明らかにすることは、国内のカモシカの地域個体群の構築過程および氷河期以降の分散の過程に言及する新たなる知見を得られる可能性がある。本研究は、マイクロサテライトDNAおよびミトコンドリアDNAを分析し、「カモシカの保護・管理に有用な情報」を得ること、カモシカの「地域個体群の構築過程」および「氷河期以降の分布拡大の過程」について明らかにすることを目的として、2018年度84試料・2019年度64個体の滅失個体について、マイクロサテライトDNAおよびミトコンドリアDNAを解析した。 その結果、マイクロサテライトDNAの解析結果では3つの分集団が確認された。さらにミトコンドリアDNA解析では、4つのハプロタイプグループが確認された。各個体の2つの遺伝子マーカーで得られた遺伝子情報と空間分布は、各マーカーの遺伝様式が違うにも関わらず、同様の空間分布が確認された。ニホンカモシカは雌雄共に強いなわばり意識をもつ生態的特徴が遺伝的な空間構造に強く影響したと考えられる。コロナ禍の影響により研究の進行が遅延しているが、今後、2020年度の滅失個体の解析を行い、さらに「氷河期以降の分布拡大の過程」および各個体間の遺伝的な関係性と空間分布について解析を行う予定である。
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