本課題は、マツ材線虫病の病原体であるマツノザイセンチュウ(以下マツノザイ)の樹体内における生存戦略を理解することを目的とする。本線虫種の病原メカニズムの全容はいまだ解明されていないが、本種がマツ樹体内で迅速に広がることは、マツ樹を枯死に至らしめるために必須であると考えられている。高い運動性や物理的耐性を支える構造的特徴を、透過型電子顕微鏡を用いて微細構造レベルで調査した。 マツノザイをマツ健全木に接種し、2週間後(マツに初期病徴が観察された時期)にマツノザイを回収した(phytophagous phase)。対照区として、マツノザイを糸状菌を生育させたマツに接種し、2週間後にマツノザイを同様に回収した(mycetophagous phase)。その結果、体軸に沿って存在する側翼と呼ばれる構造が、phytophagous phaseでmycetophagous phaseより有意に発達していることが明らかになった。側翼は体を支える構造であることから、phytophagous phaseでは側翼を発達させることが、樹体内での運動性、延いてはマツ樹を枯死に至らしめる上で重要であると考えられた。 これに加え、腸壁の微絨毛の太さ及び密度が、photophagous phaseではmycetophagous phaseより小さくなっていることが明らかになった。このことから、phytophagous phaseでは摂食より運動に特化した形態を有していることが明らかになった。
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