本研究により、主に三つの実績をあげることができた。第一に、北海道の沖合底曳網漁業の歴史資料やデータについて詳細に整理することができた。北海道機船漁業協同組合連合会では定期的に記念誌を発行しており、これが戦前からの当該漁業の歴史を丁寧に追うことを可能にしている。また、各地区の機船漁業協同組合が別に記念誌を発行しており、地区ごとの事情をさらに詳しく記述している。これに加えて、北海道沖合底曳網漁業漁場別漁獲統計、北海道水産現勢、マリンネット北海道、北海道農林水産統計などの資料が利用可能である。
第二に、室蘭地区で行われているプール制と呼ばれる独自の漁業管理の実態を明らかにすることができた。室蘭では現在の5隻の沖底船が操業している。室蘭地区では全船、全期間、全魚種にわたるプール制が実施されている。この制度が導入されたのは平成8年の10月からである。室蘭地区所属の5隻の漁船の漁獲物は追直市場でセリもしくは入札にかけられる。得られた売上金は船ごとの漁獲量に関係なく、一定比率で配分される。一方で、経費に関しては、操業に関する経費である箱代、氷代、運搬費用などはプール計算に入れられている一方で、漁具費用や油代、人件費に関しては各漁船の負担となっている。
第三に、北海道室蘭地区におけるプール制の効果について詳細な評価を行った。差分の差分法と呼ばれる最先端の分析手法を用いて、プール制導入がスケトウダラの単価と漁船の操業効率にあたえた影響を検証した。その結果、価格が24%程度、生産性が25%程度上昇したことが明らかとなった。価格の上昇は主に抱卵魚体の比率が増加したことによるものであると考えられた。一方で生産性上昇には、①漁場での混雑回避、②漁場間の努力量再配分、③漁場探索の効率化、という三つのメカニズムが考えられる。どのメカニズムがどの程度寄与しているのかの検証は今後の課題である。
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