本研究では、相模湾真鶴港内湾におけるカイアシ類の出現状況及び環境要因を周年で調査し、冬から初夏にかけて優占するAcartia steueriにくわえ、晩夏から初冬にかけて優占するAcartia japonicaに対象を絞り、培養実験を実施した。 植物プランクトンを添加した高濃度餌料環境下に10日以上曝した場合、A .steueriは体内に透明な油滴状の物質を形成する様子が観察され、高濃度餌料条件下におけるA. steueriの脂質量及び遊離アミノ酸量は、現場環境及び飢餓条件下におけるA. steueriと比較して有意に高い値を示した。一方、A. japonicaの場合は、高濃度餌料条件下に曝しても体内に油滴状の物質は観察されず、蓄積は見られなかった。 飽食状態におけるA. steueriとA. japonicaのアミノ酸の代謝フローを構築するために、10日間高濃度餌料条件下に曝したカイアシ類メス成体、卵、糞のアミノ酸量およびアミノ酸の窒素同位体を測定した。A. steueriは、代謝・卵・糞としての体外へのアウトプット量を差し引くと体内へのアミノ酸の蓄積量の推定値は、0.18nmol day-1 body-1であったのに対し、A. japonicaは、1.48 nmol day-1 body-1がアミノ酸の消費量として推定された。 相模湾真鶴港内湾において、A. steueriが優占する冬から初夏においては、A. japonicaが優占する晩夏から初冬と比較して植物プランクトン量など餌料環境の変動が極めて激しいことが知られている。A. steueriはこのような激しい餌料環境への適応の術として、代謝に速やかに用いることが可能なアミノ酸の蓄積・利用を効率よく行い、極めて高い個体数を維持しているものと示唆された。
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