研究課題/領域番号 |
19K23691
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
畑 晴陵 独立行政法人国立科学博物館, 分子生物多様性研究資料センター, 特定非常勤研究員 (90852666)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | Sardinella ventura / ギンリンサッパ / Sardinella albella / ナンカイサッパ / Sardinella gibbosa |
研究実績の概要 |
ニシン目ニシン科サッパ属の分類学的研究を推進した.日本各地で標本採集をおこなったほか,世界各地の研究機関に所蔵されるニシン目魚類の標本の観察をおこなった. その結果,モーリシャスに固有の1未記載種の存在を確認し,新種Sardinella ventura Hata and Motomura, 2021として記載をおこなった.本新種は背鰭と尾鰭の色彩や鱗の形状,鰓耙数が近似することなどから,インド洋北部分布する同属種であるSardinella dayiに類似する.しかし,新種S. venturaはS. dayiと比較して擬鰓上の鰓弁数が少ない,尾柄が短い,眼が大きい,胸鰭と腹鰭が長いことによって容易に識別され,これらの形質は統計学的にも優位に異なることが示されている.本新種の記載によりモーリシャスには3種(S. venturaに加え,オグロイワシSaridnella melanuraとSardinella jussieui)が分布することが確認された.これら2種はS. venturaとは,鰓耙数や背鰭と尾鰭の色彩の相違によって容易に識別される.また,沖縄島近海において,日本から記録のないサッパ属2種,Sardinella albellaと,Sardinella gibbosaの分布が標本に基づき確認され,それぞれに対して標準和名ギンリンサッパとナンカイサッパを提唱した.日本産サッパ属魚類の種多様性に関しては,不明な点が非常に多かったが,これらの研究により,7種が分布することが確認された.日本産ギンリンサッパS. albellaに関しては,1930年以前に採集された標本のみが確認されており,沖縄島の環境の変化によって現在の個体数は極めて少ない可能性が示唆されている. また,これらの研究を行う過程で,サッパ属以外のニシン目魚類に関しても多数の新種記載を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績概要の欄で記述した通り,本研究課題の進展によって,Sardinella albellaとS. gibbosaの沖縄島における分布が確認され,本研究課題の開始以前には3種のみが知られていた日本産サッパ属には,7種が確認され,日本国内のサッパ属魚類の多様性が明らかになりつつある.また,サッパ属やその他のニシン目魚類のいくつかの種が,沖縄島において,著しく減少していることが示されつつある. 対照的に21世紀以降,南日本各地で分布域を拡大し,漁獲量が著しく増加しているサッパ属の1種,カタボシイワシに関しても増加の経緯の調査を進めた.20世紀初頭に日本中から収集された魚類標本を東京大学総合研究博物館に所蔵される2200個体以上のニシン目魚類を精査したところ,国内産のカタボシイワシは全く見つからなかった.その他の研究機関においても,20世紀に日本国内において漁獲されたカタボシイワシは見つからず,本種の日本近海への出現が,20世紀には全く見られなかったことが示唆されつつある.その一方で,採集調査の過程でカタボシイワシとみられるニシン科魚類が千葉県外房地域においても頻繁に水揚げされることが確認されている.本種は日本国内において,これまで東京湾以西の南日本から知られていたが,より東方での分布が確認されたことから,カタボシイワシが今現在を以て,分布域を拡大していることが確認された. この様に,日本国内においてサッパ属魚類が様々な要因により著しい増減を見せていることが確認されつつあり,今後,こうした情報を公開していきたい. また,国外産のサッパ属魚類に関しては,海外渡航の制限が厳しく,観察が行えておらず,今後,より多くの魚種,幅広い海域を対象としたサッパ属の動向を観察したい.
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今後の研究の推進方策 |
2022年度においては,より広域から得られた多数の標本の観察を予定している.東南アジアなどで,採集をおこなうほか,国外の研究機関の来訪なども行い,分類学的研究,生態学的研究をおこなう予定である. また,21世紀以降に日本近海において急激な増加を見せているカタボシイワシに関しては,南シナ海から東シナ海において,20世紀に著しい増減が生じていることが先行研究によって報告されている.本種に関して,より詳細な過去の資源動向の観察をおこない,またサッパ属を越えた他の魚種との資源動向との比較を来ない,魚種交代の損z内や,その増減の要因の検討を行う予定である. その他のサッパ属魚類に関しても,複数の種において,近縁な2種間での,同一期間における出現量の増減に関する対応関係などがみられることが確認されつつあり,種間の関係や,環境との関連付けを考察するための,より詳細なデータの収集を行っていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は予定していた国外での調査を行うことができず,出張費の執行が少なくなったため,繰り越しを行った.今後は,状況により,可能になり次第,国内外を問わず出張を行い,観察資料の収集に努める.
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