高品質な果樹栽培のための点滴かんがいには大量の水が必要であるが,その確保にかかるコストは非常に高い。水量の確保とコスト削減を目的として,水田を果樹園に転用することとし,水田用水に含まれる藻類と土砂が引き起こす点滴かんがい施設の目詰まりのプロセスを分析した。 果樹の満開~落葉期(5~10月)において,かん水中に含まれる藻類と土砂の現存量を把握するため,クロロフィル濁度計を用いてChl-a濃度及び濁度を計測した。現行の目詰まりの評価は,ディスクフィルタ出口の水圧(以下,Poとする)の低下によって行われている。本研究においてもこの評価方法を取入れ,Chl-a濃度及び濁度とPoの関係を考察した。7月は,藻類の増殖などによってChl-a濃度は150FTU,濁度は33μg/Lまで上昇した。この時,Poは一時的に低下するものの1~3日後には元の値に戻ることを繰り返した。8月上旬にも濁度が94FTUに上昇したが,7月と同様にPoの低下に反映されない状態が続き,8月中旬に突発的にPoが低下してかん水が停止した。その後,ディスクフィルタの洗浄を5日間行い,8月下旬にChl-a濃度及び濁度の計測を再開した。10月上旬に濁度は60FTU前後を記録し,これを受けてPoは低下し,その値は継続された。なお,かん水再開後のChl-a濃度は1μg/L以下であった。以上のことから,藻類が増殖する7~8月は,目詰まりの進行がChl-a濃度及び濁度の上昇のみに反映され,Poの低下に反映されないことが明らかになった。この時期は,根圏制御栽培において最も多くのかん水量を要すること,また,かん水が停止すると収量低下に直結することから,目詰まりを防ぐことは必須である。したがって,目詰まりの評価方法として,現行のディスクフィルタ出口の水圧に加え,Chl-a濃度及び濁度のモニタリングを加えることが推奨される。
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