本年度は様々な動物の糞便サンプル(牛、犬、猫、鶏)から牛コロナウイルスを含むベータコロナウイルス-1種に属するウイルス群(β1CoVs)のN遺伝子の検出を試みた。その結果、犬由来サンプル約100、猫由来サンプル約100、鶏由来サンプル約50からは、β1CoVsのN遺伝子は検出されなかった。牛由来サンプル約200については2019年ー2020年の通年にかけて、正常便を中心にβ1CoVsのN遺伝子の検出を試みたものの、正常便からはウイルス遺伝子は検出されなかった。 β1CoVsの1つである牛コロナウイルスは牛に呼吸器症状と下痢症を引き起こす。このように異なる組織にて異なる病態を引き起こすことが分かっているものの、感染牛の各組織に同じ遺伝子のウイルスが感染するのか、異なる組織には異なる遺伝子を保有するウイルスが感染するのかは不明である。本研究の実施期間中の2020年2月に、岐阜県の農家にて牛コロナウイルスによる下痢症の集団発生があり、本農家の死亡成牛1頭が、剖検のため岐阜県中央家畜保健衛生所に運ばれてきた。その際に剖検に立ち会い、同死亡成牛1頭の下痢便および呼吸器スワブを回収し、ウイルス遺伝子の検出とウイルス分離を試みた。その結果、両サンプルから牛コロナウイルス遺伝子(N遺伝子とS遺伝子)が検出された。これら下痢便および呼吸器スワブ由来のウイルスの配列を次世代シークエンスにより決定したところ、両サンプル由来のウイルス遺伝子は100%の一致率を示した。この結果は、牛コロナウイルスは腸管と呼吸器という異なる組織に、同じ遺伝子のウイルスが感染することを示している。 また、これら下痢便および呼吸器スワブからウイルス分離を試みたところ、下痢便からはウイルスは分離されなかった一方、呼吸器スワブから牛コロナウイルスの分離に成功した。現在、本分離ウイルスの配列を次世代シークエンスにより決定している。
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