研究実績の概要 |
当該年度は、マウス視細胞由来株661W細胞を用いた青色LED光障害系を用い、in vitroにおけるライソゾームの機能・形態の評価系を確立し、解析を行った。播種した661W細胞に450ルクスの青色LED光を照射することで、ライソゾームの形態異常とライソゾーム関連遺伝子の発現上昇が認められた。このような変化は同程度の光量の緑色LED光では起こらず、またN-アセチルシステインの処置により抑制されたことから、青色LED光照射により生じた酸化ストレスが関与していると考えられる。青色LED光障害による遺伝子発現の変動はTranscriptional Factor EB (TFEB) によって誘導されており、その核内移行は細胞内カルシウムによって制御されていた。またアクリジンオレンジ染色下の生細胞観察や、細胞質内のカセプシンD漏出の検出により、青色LED光障害による細胞死はライソゾームの膜透過性亢進 (lysosomal membrane permeabilization, LMP) によって引き起こされることが明らかになった。実際、青色LED光照射による細胞死は、酸性プロテアーゼ阻害剤であるぺプスタチンAの処置により濃度依存的に抑制された。以上についてまとめると、近年様々な疾患との関連が報告されている『ライソゾーム死』が光障害による視細胞の脱落に関与しており、加齢性網膜疾患の発症メカニズムの一因を担っている可能性が示唆された。これらの内容について、Biochemical and Biophysical Research Communications(Otsu et al., 2020, Biochem. Biophys. Res. Commun., 526, 479-484)にて発表した。
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今後の研究の推進方策 |
青色LED光障害によるライソゾームの形態と機能異常について、そのメカニズムの詳細とともに薬剤を用いた保護についても検討していく。既報(Nakamura et al., 2017, Biol. Pharm. Bull., 40, 1219-1225; Nakamura et al., 2018, Exp. Eye Res., 177, 1-11)に基づき、青色LED光障害マウスモデルの網膜について解析を行い、ライソゾームの形態を免疫染色等で評価する。また錐体細胞トランスフェクション用のプラスミドの作製とマウスへの遺伝子導入を用いてライソゾーム関連遺伝子をノックダウンし、錐体細胞や網膜組織への影響について解析を行う。以上の知見について論文としてまとめ、年度内の投稿を目指す。
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