本研究は、セロトニン(5-HT)と腎線維化に着目し、5-HTを豊富に含む血小板から分泌された5-HTが炎症細胞や腎間質細胞に働き、炎症や線維化を調節しているのではないかという仮説を検証し、CKDの新たな治療法開発の基盤を構築することを目的としている。 前年度は血小板からの5-HT放出が起きないFH/Hamラットと野生型としてWistarラットを用い、片側尿管結紮(UUO)モデルを作製し、水腎症による腎線維化の過程について評価し、水腎におけるコラーゲン(COL1A1)およびアクチン(ACTA2)のmRNA発現がFH/HamラットのほうがWisterラットに比較して少ないにも関わらず、ベータ型変異増殖因子(TGFB1)のmRNA発現はFH/HamラットとWistarラットで差がないことが示唆された。 最終年度である本年度は、前年度と同様のモデルでデータ数を増やし以下の知見を得た。(1)本モデルにおいて、水腎におけるCOL1A1およびACTA2のmRNA発現はFH/HamラットのほうがWistarラットに比較して少ない傾向があったが、統計学的に有意ではなかった。(2)水腎におけるTGFB1のmRNA発現は、FH/HamラットとWistarラットで差がなかった。(3)また、腎臓の線維化の最終産物であるコラーゲンを定量したところ、FH/HamラットとWistarラットで差が無かった。(4)本モデル作成後7日目では、水腎における腫瘍壊死因子-α(TNF-α)のmRNA発現はFH/Hamラットで有意に低かった。 これらの結果より、このUUOモデルでは5-HTが腎線維化には直接関与していないことを示唆した。一方でこの結果は、5-HTが炎症調節には関与している可能性を示唆し、炎症を介した緩やかな線維化には関与する可能性を示唆している。
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