研究課題
ラットES細胞から、エピブラスト様細胞(EpiLC)を効率的に分化誘導することを目指し、まずは基本的な培養条件を探索した。マウスにおけるEpiLC分化誘導条件を適用したが、ラットES細胞は分化も、増殖することもできなかった。そこで複数の条件を検討した結果、特定の培養条件下では細胞が生存することを見出した。この条件での細胞培養を継続し、12時間の間隔で細胞を回収し、遺伝子発現解析および免疫蛍光染色を行ったところ、ES細胞で高発現を示すKlf4、Klf5、Nanog、Sox2遺伝子の発現低下、およびエピブラストにおいて高発現を示すDnmt3b、Otx2遺伝子の発現上昇を確認することができた。さらに、分化誘導をする際の細胞数、各種サイトカインの濃度、培養プレート等を調整し、毎回安定してEpiLCを誘導できる最適な条件を決定した。さらに、このEpiLCから始原生殖様細胞(PGCLC)への分化誘導も試みた。この実験には、Prdm14-H2BVenusを持つES細胞を用いた。Prdm14は初期のPGCにおいて高発現を示す遺伝子であり、欠損させると正しくPGCが形成されず、最終的に個体は不妊になることがわかっている。ES細胞をEpiLCに分化させ、さらにPGCLCの誘導条件下で培養し、フローサイトメトリーで解析した結果、数%から十数%のPrdm14-H2BVenus陽性細胞が出現していた。これらの陽性細胞を回収し、遺伝子発現解析および免疫蛍光染色を行った。その結果、ES細胞およびEpiLCに比べ、これらの細胞ではPGCマーカーであるPrdm14、Blimp1、Dnd1、Tfap2c、Nanos3遺伝子が高発現しており、PGCLCに分化できていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ラットES細胞からEpiLCを分化誘導する基本的な培養条件を確立することができた。さらに培養条件を検討し、最適な細胞数、サイトカインの濃度を決定することができた。現在は、常に安定してEpiLCを分化誘導することができ、さらに先のPGCLCまで分化誘導する段階まで遂行できているため。
ナイーブ型幹細胞であるラットES細胞は、マウスES細胞と同様に、EpiLCを経由することで、分化能の潜在的な活性化が起こり、PGCLCへの分化誘導が可能になったと考えられる。この事象にはEpiLCへの分化が不可欠であるのかを確認するため、ES細胞からPGCLCへの直接的な分化誘導も試みる。また、現在数%~十数%であるPGCLCの誘導効率のさらなる上昇を目指すうえで、EpiLCからPGCLCへの誘導タイミング等を詳しく検討する。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
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巻: 147 ページ: -
10.1242/dev.183798