研究課題/領域番号 |
19K23713
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
堀越 直樹 筑波大学, 生存ダイナミクス研究センター, 助教 (60732170)
|
研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
|
キーワード | G6PD / NADP / structural defects / enzymopathy / PPP |
研究実績の概要 |
本研究では、溶血性貧血の原因となるグルコース-6-リン酸脱水素酵素(glucose-6-phosphate dehydrogenase: G6PD)欠乏症の患者由来の点変異による活性低下のメカニズムを構造生物学的及び生化学的手法を用いて明らかにすることを研究目的としている。G6PD欠乏症の患者由来の変異体は5つのグループに分類され、最も重篤なClass I及びClass IIは野生型G6PDと比較して酵素活性が10%以下である。本年度は、研究計画に沿って、Class I及びClass IIの6つのG6PD変異体の立体構造を明らかにするために、それらの変異体のリコンビナントタンパク質として精製し、結晶化を行った。その結果、4つの患者由来のClass I変異体の結晶化に成功し、米国国立加速器研究所(SLAC National Accelerator Laboratory)にてX線回折データを収集し、分子置換法によって構造決定に成功した。二量体形成領域における変異体の構造解析の結果、活性中心から離れた二量体形成領域が活性中心に及ぼす構造変化が明らかになった。さらに、二量体形成領域と活性中心との間で構造変化が観察された領域における患者由来のClass I変異もまた、二量体形成領域におけるClass I変異と同様な構造変化を引き起こすことが明らかになり、二量体形成領域におけるClass I変異による活性低下のメカニズムの一端が解明された。さらに、X線小角散乱解析、クライオ電子顕微鏡解析、分子動力学シミュレーションを用いて、野生型と変異体G6PDの結晶構造において観察された構造差異が溶液中においても保存されていることが示唆された。さらに、G6PD変異体における基質結合のカイネティクス解析を行い、構造解析から示唆された基質結合能の低下を支持する結果が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定通り、X線結晶構造解析、X線小角散乱、クライオ電子顕微鏡解析技術を用いて、複数のG6PD変異体の構造解析に成功した。また、予定よりも早くG6PD変異体の基質結合のキネティクス解析も完了した。さらに、構造解析によって明らかになった野生型と変異体G6PDの構造差異を分子動力学シミュレーションを用いて解析し、400ナノ秒の短時間のタイムスケールにおいて、変異体の構造変化の初期を捉えることに成功した。これは、当初の計画にはなかったもので、X線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡解析によって明らかになった変異体G6PDにおける構造変化を支持する重要な成果となった。
|
今後の研究の推進方策 |
先行研究によって、G6PDの二量体及び四量体が活性型であり、単量体は不活性型であることが分かっている。そして、G6PDは基質であるNADP+やG6Pの量的変化によってその会合状態を制御することが示唆されている。しかし、基質の量的変化によるG6PDの会合状態及び構造変化の時分割構造解析は全くなされていない。そこで、今後は、基質依存的なG6PDの会合状態を生化学的手法により明らかにするとともに、クライオ電子顕微鏡解析を用いてG6PDの時分割構造解析を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
タンパク質精製に必要な培地、精製用カラム担体、生化学実験試薬、結晶化試薬、及び構造解析にかかる費用が予想よりも低く押さえられたため、次年度使用額が生じた。 次年度は、基質量に依存した様々な構造状態のG6PDタンパク質を調製し、生化学的手法及びクライオ電子顕微鏡を用いて解析を行う。そのために、タンパク質精製用の培地、精製用カラム担体、生化学実験試薬、クライオ電子顕微鏡解析に必要なグリッド、クリッピングなどの消耗品にそれぞれ、30万円、30万円、23万円、30万円を計上する。また、国際学会での成果発表にかかる費用として、20万円計上する。さらに、論文掲載にかかる費用として30万円を計上する。
|