研究実績の概要 |
本課題における研究目的は、溶血性貧血、黄疸、ビリルビン脳症などの原因となるグルコース-6-リン酸脱水素酵素(glucose-6-phosphate dehydrogenase: G6PD)欠乏症の患者由来の点変異体の構造解析及び性状解析により、点変異によるG6PDの活性低下のメカニズムを解明することである。G6PD欠乏症における変異はそれによる活性への影響と症状に応じて5つのクラスに分類される。最も重篤な区分であるクラスIにおける変異体は野生型の10%以下の活性を有し、さらに慢性の溶血性貧血の原因となると考えられている。クラスI変異は活性部位から離れたG6PDの二量体形成領域に集中しており、それによる活性低下のメカニズムは全く分かっていなかった。我々のグループはクラスI変異体の立体構造をX線結晶構造解析により解明し、クラスI点変異により二量体形成領域から活性部位までの広範囲に渡る構造変化が引き起こされることが明らかになった。さらに、X線小角散乱解析、クライオ電子顕微鏡解析、分子動力学シミュレーションによって、溶液中やin silicoにおいても同様の構造変化が起こることが示唆された。加えて、その他のクラス1変異も同様の構造変化を誘起することが明らかになり、G6PD変異体において観察された構造変化は、二量体形成領域周辺のクラス1変異体に共通した特徴であることが示された。これにより、複数のクラス1変異体に対する創薬化学研究が初めて可能になると考えられる。本研究成果は、Proceedings of the National Academy of Sciences USA誌に掲載された(Horikoshi N., et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2021)。
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