研究課題/領域番号 |
19K23715
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
都筑 正行 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (40845616)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | RNAサイレンシング / クロマチン / 転写 / 植物 |
研究実績の概要 |
本研究は植物特異的なRNAポリメラーゼであるPol Vが、本来のトランスポゾン領域における多量の転写以外にもDNAメチル化ゲノムワイドに微量の転写を行っていることを示唆するデータを得たこと発端とし、ゲノムワイドな転写の役割および新規DNAメチル化への移行メカニズムを明らかにすることを目的としている。RdDMの標的領域であるトランスポゾン上などにおいて、どのようにDNAメチル化を維持するかに関しては明らかになってきたが、新規にトランスポゾンの挿入が起きた場合などにDNAメチル化を新たに付加するメカニズムは未だ不明である。 2019年度は、Pol VのRIP-seqデータからゲノムワイドな転写領域の特性をバイオインフォマティクス解析により明らかにした他、ヘアピンRNA発現コンストラクトを植物体に遺伝子導入し、siRNAの発現がDNAの新規メチル化に十分であるかどうかの検証を試みた。バイオインフォマティクス解析は順調に進展し、Pol Vの非RdDM転写領域を隠れマルコフモデルによって抽出した後、メタ解析により非RdDM転写領域ではDNAのメチル化レベルが低いこと、予測どおり小分子RNAの蓄積が見られないことが明らかになった。またトランスポゾンが再活性化したddm1変異体のデータを用いて、非RdDM領域におけるDNAの新規メチル化上昇には、Pol Vの転写が必要であることが示唆された。ヘアピンRNAによるsiRNA発現系は、当初想定したように小分子RNAが発現しなかったことから、コンストラクトの再設計が必要であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、当初の予定通り変異体を用いたPol VのRIP-seqおよびバイオインフォマティクスによるメタ解析を行い、Pol Vによるゲノムワイドな微量の転写の特徴を調べた。まずカバレージの上昇したRIP-seqのデータからゲノムワイドな微量の転写状態の特徴をバイアスを避けて解析するために、隠れマルコフモデルを用いてRIP-seqのデータからゲノム領域を推定し、4状態に分けた。解析の結果、従来のRdDM領域および本研究の対象とする非RdDM領域と推定される領域を得た。その特徴として、RdDMに見られるDNAメチル化状態がないこと、小分子RNAの蓄積が見られないことが確かめられた。またトランスポゾンが再活性化したddm1変異体のDNAメチル化データを用いて、ddm1における非RdDM領域におけるDNAのメチル化上昇には、Pol Vの転写が必要であることがわかった。これによりPol Vのゲノムワイドな転写が新規のDNAメチル化誘導に必要であることが示唆された。 また、ヘアピンRNAコンストラクトの遺伝子導入系の確立を試みた。計画の通りゲノム上の複数の領域を標的にしたヘアピンRNAコンストラクトを作製し、シロイヌナズナの形質転換植物体を作出したが、当初の予定通りsiRNAを発現せず、コンストラクトの設計を改変する必要があることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、まず前年度の結果を受けsiRNAを発現するヘアピンRNAコンストラクトの設計を改変して、再度形質転換体を作出する。ヘアピンの塩基長の変更およびinverted-repeatの間の配列部分の改変を行い、植物体でsiRNAを効率的に発現させる条件を検討する。また、詳細に新規メチル化を誘導するメカニズムを明らかにするため、誘導系プロモーターを用いたsiRNA発現誘導系の確立にも取り組む。 当初の予定通り、DNAメチル化阻害剤を用いてPol Vが新規DNAメチル化に必要かどうかを明らかにする。またmCGが欠失したmet1変異体を用いて、DNAメチル化が欠失した状態の植物体においてPol Vの転写がどのような役割を果たすのかおよび作用メカニズムを明らかにする。具体的には、met1におけるPol VのRIP-seq、メタ解析を行い、ゲノムワイドな傾向を明らかにする他、より詳細な分子生物学的実験により確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で、予定されていた学会発表が中止になり、旅費の使用用途の変更を余儀なくされた。この発表分に関しては次年度の学会発表を増やす形で使用する予定である。
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