植物特異的なRNAポリメラーゼであるPol Vが、本来のトランスポゾン領域における多量の転写以外にもDNAメチル化ゲノムワイドに微量の転写を行っていることを示唆するデータを得たこと発端とし、ゲノムワイドな転写の役割および新規DNAメチル化への移行メカニズムを明らかにすることを目的として研究を行なった。 令和2年度は、Pol Vの正常な転写に影響を与える可能性が考えられる因子の変異体植物を用いて、Pol Vの転写物RNAを網羅的にシーケンシングする改変RIP-seq法IPAREを行なった。その結果、まずDNAメチル化変異体であるmet1、cmt3、drm2のそれぞれについて、一部のPol Vの標的領域における転写量に変動があった。全体の傾向としてPol Vの転写量に大きな変動が見られたのはmet1に限定されたが、Pol Vの標的領域は複数のメチル化経路が冗長的にはたらく可能性が考えられたことから、先行研究によるメチローム解析のデータと組み合わせてゲノム領域を分類することでメチル化レベルのPol V転写への影響を見た。その結果、DNAメチル化がPol Vの転写に影響することが明らかとなり、DNAメチル化とPol Vの転写には正のフィードバックが存在することが示唆された。これらの因子のPol Vの転写への関与は、トランスポゾン上とそれ以外のゲノムワイドな領域とでの大きな違いを検出することはできなかったことから、2つの転写メカニズムには大きな違いはないことを示唆している。小分子RNAの存在によるフィードバックの閾値による違いであるというモデルが示唆された。 一方ヘアピンRNAの導入の解析は、植物体への重篤な影響を持つものが多いなどの原因から、系の確立には至らなかったことから、さらなる今後改良を重ねた解析を継続する必要がある。
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