研究課題/領域番号 |
19K23717
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
Lee Seohyun 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 特任研究員 (00847973)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞内物質輸送 / 機械学習 / ディープラーニング / 小胞体 / 細胞骨格 / モータータンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究は機械学習の技術を用いて生きている細胞内での物質輸送をナノスケールで解明することを目的とする。2019年度の計画は、1)生きているヒト乳がん細胞の中で物質輸送を担当する小胞体を量子ドットでラベリングし、顕微鏡を用いたイメージングで小胞体の3次元軌跡データを確保する。2)3次元軌跡データから小胞体と細胞骨格との相互作用が行った区間を特定し、その時系列位置座標と速度などの物理量を抽出する。3)抽出された物理量を特徴量とし、機械学習のトレーニングデータとしてクラス分類に活用可能か診断することであった。計画1)において、小胞体の3次元軌跡データは、培養されたヒト乳がん細胞の小胞体を安定的に染色させる適切な量子ドットトラッカーを見つけ、光脱色の少ないイメージング条件で小胞体運動のイメージデータを確保することに成功した。計画2)においては、細胞イメージデータから小胞体の3次元軌跡を抽出し、小胞体と細胞骨格との相互作用が行った区間を主成分分析などの数値計算方法を導入することで予測及び特定することに成功した。計画3)において、機械学習のトレーニングデータとして活用する特徴量を、細胞骨格での小胞体運動で抽出可能な物理量(速度、乗り換えの角度、乗り換えにかかる時間、相互作用が行なった区間の長さ、など)で適用し、試験的なデータプールとして実験を行うところまで進めてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前項で述べた2019年度の三つの計画において、試験的なデータプールでは小胞体の運動から抽出された物理量を機械学習で活用される特徴量としてトレーニングさせることに成功した。この結果に関して、国際生物物理学会で世界の生物物理学者らから肯定的なコメントをもらうことも可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の計画として、機械学習による小胞体自体の運動分析だけではなく、小胞体を動かすキネシンやダイニンなどのモータタンパク質の運動まで解明することを目指す。特に、細胞内物質輸送に直接的に関与するモータタンパク質の物理特性を用い、機械学習で分析された小胞体の運動パターンから特定な小胞体の挙動におけるモータタンパク質の種類及び数を予測することは非常に興味深い課題となる。このような計画を遂行することで、機械学習が生物物理学に新たなページを開けることを確認し、今まで解析できなかった膨大なイメージデータを生かせ、ウイルスの体内伝播や薬物の伝達を理解するための基本研究である細胞内物質輸送のパターン解明の研究をより深めることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
該当年度に支出を計画した物品費において、高性能計算機の適切なモデルを徹底的に検討するため、購入の遅れが発生した状況である。今までは試験的なデータを用いた実験であったため、一般のパソコンでの機械学習が可能だったが、これからの研究ではデータの量が膨大になるため、翌年度には高性能計算機の購入を計画している。そのため、従来に翌年度分の予算と合わせ、次年度使用額が必要である。
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