アクチンや微小管といった細胞骨格とそれに付随するモータータンパク質によって駆動される細胞内輸送は、細胞機能の維持に必須な物質輸送機構である。小胞やオルガネラ、タンパク質、RNA等がカーゴ(積荷)として輸送されることが知られており、輸送モーターがカーゴに付属した特異的なアダプタータンパク質を認識して結合することで、精密に制御された物質輸送が可能となる。しかし、重要な生理機能であるにも関わらず、植物の微小管依存的な細胞内輸送の分子機構には未解明な部分が多い。そこで、遺伝学的ツールの利用が可能であり、顕微鏡観察に適した細胞を持つ基部陸上植物ヒメツリガネゴケ(Physcomitrium patens)を用いて研究を行い、植物細胞内輸送を支える分子基盤や制御機構の解明を目指した。 前年度までの研究で、当初計画していた複数の順行性キネシンの多重遺伝子欠損株を作出したが、細胞内輸送異常の表現型として想定していた核や葉緑体の配置異常は認められなかった。解析した順行性キネシンは細胞内輸送には関わっておらず、別の因子が輸送に寄与している可能性が高い。そのため、探索の範囲を広げて、TPRモチーフを持つことで特徴づけられるKLC (Kinesin Light Chain)様タンパク質や、当初は計画していなかった別のモータータンパク質の解析に着手した。樹立したいくつかの多重遺伝子欠損株の中には輸送異常を想起させる興味深い表現型を示す個体も確認された。これらがどう細胞内輸送に寄与しているのかに関する詳細な分子メカニズムを明らかにするため、各種マーカータンパク質やトランケーションタンパク質を変異体に発現させ、イメージング解析を行った。
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