研究課題/領域番号 |
19K23726
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
市川 宗厳 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (80844662)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 繊毛 / 微小管 / X線結晶構造解析 / クライオ電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
これまでの研究から引き続き、繊毛虫テトラヒメナ繊毛から微小管内タンパク質構造を保持したダブレット微小管を単離して氷包埋し、クライオ電子顕微鏡で撮像した。画像数の増大・構造解析手法の改善を行って、得られた電顕像を用いて構造解析を行った結果、チューブリン格子・微小管内タンパク質の立体構造を、これまで我々が報告していた分解能(8.6 Å)からさらに向上し、4.3 Åという近原子分解能で得た。これにより、ダブレット微小管のチューブリン格子構造が、一様ではなく、領域によって多彩な構造を取っていることが分かった。これは、多様な微小管内タンパク質の結合が、チューブリン格子構造の構築に内側から影響していることを示唆した。 さらに、これまで用いてきたテトラヒメナ由来ダブレット微小管だけではなく、緑藻クラミドモナス鞭毛から単離したダブレット微小管についても同様にクライオ電子顕微鏡法で構造解析し、4.5 Å分解能で立体構造を得た。インナージャンクションと呼ばれるダブレット微小管のA小管とB小管の境界領域に注目してさらに解析することで、テトラヒメナダブレット微小管・クラミドモナスダブレット微小管のインナージャンクション構造をそれぞれ、3.9 Å, 3.6 Å分解能で得た。これにより、異なる種における微小管内タンパク質の構造の差異も明らかになった。これらの微小管内タンパク質構造の違いが、繊毛・鞭毛における異なる波形の制御機構に繋がっていると考えられる。微小管内タンパク質を保持したダブレット微小管を質量分析法によって解析することで得た微小管内タンパク質の候補と、クライオ電子顕微鏡法で得た構造を比較することで、いくつかの微小管内タンパク質の同定も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請した研究計画は、微小管内タンパク質のチューブリン格子構造構築への影響を調べるというものであった。テトラヒメナ由来ダブレット微小管の立体構造をクライオ電子顕微鏡法を用いて高分解能で得ることで、微小管内タンパク質の内側への結合が、チューブリン格子構造を均一ではなく、多様かつ複雑な構造へと固定することを明らかにすることができた。この内容については、申請者が筆頭著者として期間中に論文としてPNASに発表した(Ichikawa et al., 2019)。研究計画では、微小管内タンパク質の同定とダブレット微小管構造内での位置同定も行う予定であったが、クラミドモナスのダブレット微小管を用いて質量分析・クライオ電子顕微鏡による構造解析を行うことで、いくつかの微小管内タンパク質について同定・位置決定も行うことができた。これらの結果については、共同筆頭著者としてeLifeに論文を投稿し、当該年度内に受理された(Khalifa, Ichikawa et al., 2020)。これらのことから、本予算の支援を受けて大きな成果を上げたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後はさらに、同定した個々の微小管内タンパク質に着目してその性質・立体構造について調べていく予定である。個々の微小管内タンパク質を大腸菌において発現し、精製した後、in vitroでチューブリンと共重合させ、その微小管重合への影響を調べる予定である。また、収量良くかつ高純度で精製することができれば、結晶化・X線結晶構造解析も試み、その立体構造を原子分解能で得ていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に、各微小管内タンパク質の結晶化を行うこととなった。また、次年度に所属研究室でも電子顕微鏡によるタンパク質の構造解析の系を立ち上げることとした。これらの理由により、より多くの予算が次年度に必要となったため、初年度に使用する額を抑えた。
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備考 |
所属機関を通じて、Ichikawa et al., PNAS (2019)の日本語プレスリリース「細胞表面で波打つ繊毛の微小管の超微細な立体構造の観察に 世界で初めて成功、その内側からの補強機構を解明 ~不妊など繊毛病の病態解明にも期待~」を出すことにより、原著論文の内容を一般大衆にも分かりやすく解説した。
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