本研究は、羊膜上皮細胞由来エクソソームに優位に含まれるmicroRNAによる肝線維化抑制作用機序の解明を目的として行われた。まず、in silico分析により類推された細胞内シグナル伝達因子の解析を行い、PDGFR-ERK-SRF経路の下流遺伝子の発現が、合成 miR483-5pの導入によって変化するかどうか検討したが、心筋を用いた先行研究データからの予想に反して、肝線維化の主体となる肝星細胞においては、miR483-5pのPDGFR-ERK-SRF経路への直接の影響は認められなかった。 そこで、初代ヒト肝星細胞に対するmiR483-5pの未知の作用機序を解明するためプロテオーム解析を行い、miR483-5pの導入によって発現変動のあるタンパク質を同定した。同定された上位10のタンパク質の検討から、miR483-5pの標的遺伝子としてアクチン関連LIMタンパク質、PDLIM3 が肝線維化に関連すると仮定し、ヒト肝星細胞株であるLX2細胞を用いて検証した。 まず、LX2細胞が初代培養肝星細胞と同様にPDLIM3を発現していることを確認し、その発現がmiR483-5pの導入によって減少することを検証した。次に、PDLIM3タンパク質の減少と肝星細胞の活性化との関連を調べるため機能獲得/機能喪失実験を行った。LX2細胞を親株とし、PDLIM3強制発現細胞株とshRNAを用いたPDLIM3ノックダウン細胞株、およびそれぞれのコントロール株を作成した。TGF-bとPDGFbbを培地に添加することによってこれらの細胞株を刺激すると、PDLIM3ノックダウン細胞株において優位に細胞増殖、alpha-SMAの産生が減少した。これらのことより、羊膜上皮細胞由来エクソソームに含まれるRNAは、アクチン重合に関わるPDLIM3の発現を阻害することによって肝星細胞の活性化を抑制することが示唆された。
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