研究課題/領域番号 |
19K23734
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
西村 健司 関西学院大学, 理工学部, 助教 (70840544)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 葉緑体 / タンパク質分解 / ペプチド / ABCトランスポーター / レセプター |
研究実績の概要 |
本研究では、2つの葉緑体内包膜局在のペプチド輸送体様ABCトランスポーターとそれらの協調制御因子である受容体型タンパク質の解析を通じて、葉緑体由来ペプチドが辿る運命と果たす役割について検証している。 これまでのRNAseq解析から、当該ABCトランスポーター2種類のうち一方の遺伝子欠損変異株では一群のシャペロン遺伝子の発現が低下することが観察されている。これらシャペロン遺伝子群は、ある種のオルガネラタンパク質のフォールディングストレスに応答して発現することが知られている。そのため薬剤処理により同ストレスを誘導したところ、そのレスポンスに異常があることが分かった。一方、両トランスポーターを欠損する二重変異体を作出し、トランスクリプトーム解析を行ったところ、上記シャペロン遺伝子群の発現は野生型レベルに回復していた。これは当該シャペロン遺伝子の発現を負に制御するGASAファミリー遺伝子の発現が二重変異体でのみ低下していることから説明できる。 2つのABCトランスポーターのいずれの欠損株においても遺伝子発現が低下していたTIR-NBS型受容体タンパク質の細胞内局在を生化学的に決定するため、当該受容体のTIRドメインを抗体作成用の抗原タンパク質として発現・精製した。また同受容体型タンパク質のペプチド結合能を検証するために、全長組換体タンパク質の発現・精製も行った。リガンド候補の分解産物に相当する合成ペプチドも水溶性の物性を示した。一方、生理機能を明らかにするためにT-DNA挿入株を単離したが、外観は上記トランスポーター変異体と同様に野生株と同等であった。過剰発現体は胚性致死の可能性があることが報告されていることから、薬剤誘導系を利用した過剰発現体を作出することとした。さらに同受容体タンパク質の発現条件を検討した結果、細胞質側の翻訳阻害時に発現上昇することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の解析から、葉緑体局在ペプチド輸送体様トランスポーターが、非葉緑体オルガネラのストレス応答に影響を及ぼすことが示唆された。またRNAseq解析から両トランスポーターの複雑な機能的関係性についての知見も得られた。一方、受容体型タンパク質の生化学的特性を評価するための各種組換体タンパク質の作成やリガンド分子の溶媒溶解性、分子表現型を検証するためのT-DNA挿入変異体の単離、形質転換体の作出準備の進捗状況いずれも良好であり、これらを用いた機能解析が予定通り遂行できると期待される。さらに本来病害抵抗時に誘導される当該受容体タンパク質の新たな制御メカニズムの存在も示唆され、病害応答と細胞質タンパク質恒常性との関係性・共通性の理解に発展する可能性も見出した。
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今後の研究の推進方策 |
オルガネラストレス応答への関与が示唆されたABCトランスポーターに関しては、葉緑体内包膜上に存在することは生化学的に確認できているが、抗体の特異性の低さから複合体形成状態等の情報が得られていない。そこで特異抗体を再度作成し、これを用いた生化学的解析により当該ストレス応答との関連性を検証する。もう一方のトランスポーターについては、約1 MDa程度の超複合体として存在することが分かっているため、免疫共沈降-質量分析法により複合体構成タンパク質の単離・同定を目指す。一方受容体タンパク質に関しては、精製した抗原をもとに特異抗体を作成し、これと各種細胞内画分(細胞質、葉緑体、核など)を用いた生化学的解析により細胞内局在性を決定する。また合成ペプチドを架橋剤により担体に連結させたのち、精製した全長受容体タンパク質等を作用させて、そのペプチド結合能を評価する。さらにT-DNA挿入変異体や薬剤誘導型過剰発現体のRNAseq解析等により、上記トランスポーターとの類似性などの分子表現型を明らかにする。以上のABCトランスポーターと受容体タンパク質の解析により葉緑体外でのペプチドの作用点と効果について検証する。
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