• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2019 年度 実施状況報告書

一分子蛍光イメージングを用いたヒトDNA複製開始因子の動態解明

研究課題

研究課題/領域番号 19K23735
研究機関国立遺伝学研究所

研究代表者

伊藤 優志  国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 特任研究員 (20847206)

研究期間 (年度) 2019-08-30 – 2021-03-31
キーワードヌクレオソーム / クロマチン / 一分子蛍光イメージング / 蛍光顕微鏡 / RNA転写 / DNA複製 / オーキシン / 液液相分離
研究実績の概要

当該年度は、一分子蛍光顕微鏡を用いてヌクレオソームの動きを追跡した。具体的には、Haloタグを修飾したヒストンタンパク質H2Bを持つ細胞を作製し、その細胞に蛍光色素を加えることで、ヌクレオソームを蛍光で可視化した。
初めに、RNAの転写がヌクレオソームの運動に与える影響を検証するために、RNAポリメラーゼIIを阻害する薬剤で細胞を処理し、転写を阻害した。具体的には、ヒトRPE-1細胞を、RNAポリメラーゼのC末端ドメインのリン酸化を阻害する薬剤である、THZ1とPHA 767491で処理した。THZ1で処理した細胞ではヌクレオソームの動きが増加したが、PHA 767491で処理した細胞では変化しなかった。THZ1とPHA 767491はそれぞれ、転写の開始と伸長に関わるRNAポリメラーゼのC末端ドメインのリン酸化を阻害する。したがって、転写の開始の状態がヌクレオソームの運動の抑制に寄与していると考えた。
次に、DNAの複製がヌクレオソームの動きにどのように影響するか調べるために、HeLaS3細胞に過剰量のチミジンを加えることで、細胞周期を同調させた。続いて、DNAポリメラーゼαの機能を阻害し、DNA複製を阻害する薬剤であるアフィジコリンで細胞を処理してからヌクレオソームの動きを観察した。その結果、DNA複製を阻害しなかった細胞と比べて、ヌクレオソームの動きは変化しなかった。また、薬剤を添加してMCM2タンパク質を分解させることで、DNAポリメラーゼのDNA複製起点への結合を阻害した場合も、ヌクレオソームの動きは変化しなかった。これらの結果から、RNAの転写と異なり、DNAの複製ではヌクレオソームの運動が抑制されないということを見出した。以上より、DNAの複製に関わるタンパク質複合体は、クロマチンを含む大きなネットワークを作らずに機能するというモデルを立てた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

DNAの複製がヌクレオソームの動きに与える影響を正確に調べるために、DNAの複製が行われているS期に細胞を同調させる必要があった。細胞と薬剤の種類によって同調の程度が異なったため、条件検討を行った。本研究課題では、ヒトのHeLaS3細胞とチミジンという薬剤の組み合わせを使用し、作製した細胞をS期に同調することに成功した。作製した細胞でヌクレオソーム一分子の運動の観察を行い、「RNAの転写と異なり、DNAの複製がヌクレオソームの動きに影響を与えない」という新しい知見を見出した。また、「DNAの複製に関わるタンパク質複合体は、クロマチンを含む大きなネットワークを作らずに機能する」というモデルを立て、検証する段階に至っている。以上より、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えた。

今後の研究の推進方策

第一に、「RNAの転写に関わるタンパク質複合体が大きな塊を形成し、ヌクレオソームの運動を抑制する」というモデルを検証する。具体的には、1,6-ヘキサンジオールで細胞を処理することで塊を分解させたり、転写に関わるメディエータータンパク質複合体を分解させたりすることで、ヌクレオソームの動きが変化するか調べる。また、細胞内のタンパク質複合体の塊を観察し、その周囲のヌクレオソームの動きが抑制されているか確認する。
二番目に、転写の開始と伸長のどちらの過程がヌクレオソームの運動の抑制に関わるか、より明確にする。THZ1とPHA 767491で細胞を処理した実験において、THZ1が転写の開始だけでなく、伸長の過程も阻害することを示唆する結果が得られた。そこで、他の転写阻害剤であるJQ1などで細胞を処理し、開始と伸長の過程の一方のみを阻害することを目指す。また、転写阻害剤の処理時間や濃度、種類などの条件を検討する。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2020 2019

すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] Fluid-like chromatin: Toward understanding the real chromatin organization present in the cell2020

    • 著者名/発表者名
      Maeshima Kazuhiro、Tamura Sachiko、Hansen Jeffrey C.、Itoh Yuji
    • 雑誌名

      Current Opinion in Cell Biology

      巻: 64 ページ: 77~89

    • DOI

      10.1016/j.ceb.2020.02.016

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Local Chromatin Motion and Transcription2020

    • 著者名/発表者名
      Babokhov Michael、Hibino Kayo、Itoh Yuji、Maeshima Kazuhiro
    • 雑誌名

      Journal of Molecular Biology

      巻: 432 ページ: 694~700

    • DOI

      10.1016/j.jmb.2019.10.018

    • 査読あり
  • [学会発表] RNAポリメラーゼIIにより制御されるクロマチンダイナミクス2019

    • 著者名/発表者名
      伊藤優志、Babokhov Michael、日比野佳代、前島一博
    • 学会等名
      第57回日本生物物理学会年会
    • 国際学会

URL: 

公開日: 2021-01-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi