研究実績の概要 |
昨年、本研究の前提となった「転写因子BACH1が鉄依存性細胞死であるフェロトーシスを促進すること」の研究成果を誌上で報告した(Nishizawa H.,et al. J Biol Chem. 295. 69-82. 2020)。 この研究の継続研究として、BACH1による細胞老化抑制作用がフェロトーシスを起こした細胞から老化抑制物質が分泌されることによるかどうかを検証した。フェロトーシス細胞からの培養上清を他細胞に移譲してその老化抑制効果を検証しているが、実験工程の最適化がさらに進み、仮説を支持する予備的知見も得られつつある。 また、フェロトーシス細胞からの分泌物質には、脂質過酸化関連物質とその他の内分泌因子の少なくとも2グループがあることが分かっていたが、このうちの脂質過酸化関連物質については物質の特定までには至っていないものの、これらを介して脂質過酸化反応と細胞死がフェロトーシス細胞から他細胞へと伝播することを示すことができた。このフェロトーシスの伝播現象は、神経変性疾患や虚血性疾患などのフェロトーシス関連疾患の病変の拡大に寄与すると考えられ、これらの疾患の病態の解明につながるとともに、新規の治療標的の開拓にも役立つと考えられる。一方、逆にこのフェロトーシスの伝播現象をがん治療に応用できる可能性もあると考えている。本研究の成果は、2021年3月に Cell Death & Disease 誌 (Nishizawa H, et al. Cell Death Dis. 12(4). 332。2021)において発表された。 一方、フェロトーシス細胞から分泌されるその他の因子の影響については、上記の通り、実験工程の最適化が進んだので、老化抑制効果を中心にその作用を検証し、理解を進めることができると考えている。
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