本研究計画は、被子植物において葉の獲得を可能にした分子機構を世界に先駆けて明らかにしようとするものである。応募者は、これまでその詳細が全くの謎であった葉の獲得を可能にした分子機構を、進化学的観点から複数の植物群を選択し、分子生物学的手法、インフォマティクスなどを駆使して、当初2年計画で明らかにする計画であった。しかしながらコロナの蔓延により、想定よりも進捗が芳しくなかったため、1年延長し、合計で3年間の実施となった。 2021年度は、前年度に引き続き、複数のモデル植物を用いたRNA-seqとそのデータを用いた解析を行なった。具体的には、それぞれのRNA-seqデータを用いてのDEG解析や、カウントデータを用いた共発現遺伝子ネットワーク(GCN)の構築と、その比較を行なった。これまでに、現存する被子植物の系統樹の中で最基部に位置し、単葉を形成するアンボレラ(Amborella trichopoda)、やトマト(Solanum lycopersicum)のRNA-seqデータを用いて、GCN解析などを行ない、それらの比較を行なってきたが、2021年度は、単葉のモデル植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)でもRNA-seqを行ない、GCNの構築や、同じく単葉をもつアンボレラとの比較解析を行なった。 比較の結果、単葉をもつアンボレラとシロイヌナズナの2種の葉原基の遺伝子発現プロファイルは、系統的に離れた2種であっても、その基本的な部分に関しては類似していることが明らかになった。これにより、アンボレラとシロイヌナズナの2種が属する被子植物における単葉の発生プログラムは、被子植物の基部において、その基本的な部分はすでに確立していたことが示唆された。
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