本研究の目的は指定難病疾患であるヒト14番染色体父親性二倍体症候群(Kagami-Ogata症候群)の発症機序の解明を通じて新規治療法開発の可能性を探ることである。Kagami-Ogata症候群は胎盤過形成、腹直筋乖離、肋骨形態異常を伴う呼吸不全による新生児致死、知的障害を特徴とするヒト先天性疾患であり、Peg11/Rtl1(以下Rtl1)の過剰発現が主な原因であると考えられている。 この疾患の症状の一つである骨格筋異常に着目し、Rtl1の筋肉形成・維持における機能解析を行った。Rtl1欠損および過剰発現マウスの解析から、① Rtl1は胎児期から新生児期の骨格筋で時期特異的に発現している、② Rtl1欠損および過剰発現マウスの新生児では呼吸に重要な筋肉である肋間筋・横隔膜・腹壁の筋線維で構造異常がみられる、③ Rtl1タンパク質は筋線維の強化・収縮に関わるタンパク質と共局在する、④ Rtl1は筋肉の幹細胞である筋衛生細胞の増殖・分化の制御に関わり、筋衛生細胞から分化する筋芽細胞ではRtl1欠損および過剰発現どちらも構造の脆弱化が見られることを明らかにした。これらのことから、Rtl1の過剰発現がKagami-Ogata症候群における呼吸不全、腹直筋乖離の主な原因であることが示唆された。 また、Kagami-Ogata症候群は知的障害も観察されるため脳におけるRtl1の解析も行った。Rtl1が大脳皮質(哺乳類特異的部位)および左右の半球を繋ぐ脳梁(真獣類特異的部位)で発現していることを確認し、Rtl1欠損および過剰発現マウスの行動解析ではそれぞれ自発運動の低下、不安様行動の増加、記憶障害を観察した。
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