上皮組織が正常に形成され機能するには、上皮細胞の運動と増殖の適切な制御が不可欠である。しかし、上皮細胞の運動と増殖が時空間的に協調して制御されるしくみは不明であり、本研究ではその解明を目指した。細胞周期蛍光バイオセンサーFucciを導入した上皮細胞を単層培養し、粒子画像流速計測法により細胞運動速度場を計測すると、細胞播種後30時間程度までは活発な細胞協同運動と細胞周期の進行を示し、播種後50時間程度までに細胞運動と細胞周期進行が基底レベルまで低下することが見出された。そこで、この時間依存的な運動と増殖の協調制御をモデルとして解析を進めた。 細胞周期の進行に伴い播種後50時間までに細胞密度は約1.5倍に上昇しプラトーレベルとなった。しかし、細胞の最初の播種密度を1.5倍大きくしても播種後30時間までの細胞運動と細胞周期進行は基底レベルに低下しなかったことから、時間依存的な運動と増殖の協調制御には細胞密度以外の因子が必要であった。 上皮細胞の協同運動は葉状仮足の形成により駆動されるが、葉状仮足の形成と葉状仮足のマスターレギュレーターであるRac1の活性は、播種後30時間程度を過ぎると大幅に低下した。Rac1を阻害すると播種後30時間程度までの細胞協同運動のみならず細胞周期進行も抑制された。すなわち、Rac1は上皮単層中で細胞の運動と増殖を共に促進させることが示された。一方で、上皮単層組織の形成・維持は細胞間接着であるアドヘレンスジャンクション(AJ)の形成に依存しているが、alpha-カテニンのノックダウンや、E-カドヘリン結合の阻害、細胞の低密度培養などによりAJ形成を妨げると、細胞運動と細胞周期進行の時間依存的協調が撹乱された。このことから、AJは上皮組織と形作るとともに組織内の細胞の運動と増殖を協調させていることが明らかとなった。 以上の結果は、iScience誌にて発表した。
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