研究課題/領域番号 |
19K23749
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
菊地 真理子 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (20845135)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 生殖細胞 / 性決定 / foxl3 / 卵形成 / メダカ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、生殖細胞の性決定機構を転写因子FOXL3 の作用機序から究明することである。そのための方法として、免疫沈降-質量分析法(IP-MS)によるFOXL3相互作用因子の網羅的同定を計画した。2019年度は、最初にメダカ卵巣細胞とFOXL3抗体を用いてIPの条件検討を行った。その結果、当初予定した数の卵巣からはMSに必要なIPサンプルを得ることが難しいと判明した。そこで計画を変更し、セルソーターで単離した生殖細胞のプロテオームを、野生型とfoxl3変異体で比較することにより、FOXL3依存的に変動するタンパク質群を同定することにした。この比較解析により浮上した関連因子についてFOXL3との相互作用をIPで検証し、変異体解析やライブイメージング解析につなげる。MSに用いるメダカとして、foxl3p-EGFP; foxl3変異体系統を予定しており、現在個体数を増やしている段階である。 一方、FOXL3のターゲット遺伝子としてrec8aとfbxo47が既に同定されている(Kikuchi M, et al., 2019, Dev Biol)。このうちfbxo47は、foxl3の下流で精子形成の抑制に寄与していることが示唆された。この仮説をさらに検証するため、fbxo47をfoxl3変異体に異所的に発現させ、foxl3変異体卵巣内でみられる生殖細胞のオス化(精子形成)がレスキューされるかを調べた。その結果、fbxo47を導入した生殖細胞は精子形成を行わないことが示され、上記仮説が支持された。以上の結果は、rec8aとfbxo47の変異体解析結果と共に論文にまとめて発表した(Kikuchi M, et al., 2020, PNAS)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FOXL3の作用機序から生殖細胞の性決定機構を解明するという目的において、FOXL3の直接ターゲットであるrec8aとfbxo47の詳細な解析を進めることができた点で大きな進展があったと考える。rec8aの下流では減数分裂が、fbxo47の下流では卵胞の形成・成熟が制御されており、生殖細胞の性決定と卵形成とをつなぐ2つの分子経路が脊椎動物で初めて明らかになった。さらに、FOXL3がfbxo47を介して精子形成を抑制していることも見出した。 FOXL3が生殖細胞の性のスイッチ因子として働く分子機構は上記経路の制御の点からも非常に興味深く、解明すべき問いとして残されている。《研究実績の概要》に記したように、FOXL3の下流において細胞内で変動する経路をMSで同定するための準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
《研究実績の概要》に記したように、foxl3p-EGFP; foxl3変異体メダカ系統の卵巣から生殖細胞を単離し、MSによるプロテオーム解析を行う。メダカサンプルは2020年12月頃に得られる予定である。卵巣からEGFP陽性細胞を単離する系は既に確立しており(Kikuchi M, et al., 2019, Dev Biol)、MS解析は名古屋大学ITbMの桑田啓子氏との協力で行う。得られたプロテオームをfoxl3変異体と野生型で比較し、foxl3依存的に発現変動するタンパク質群を同定する。クロマチン修飾因子や染色体の高次構造制御因子を候補としてFOXL3-IPによるスクリーニングを行い、FOXL3相互作用因子を選別する。将来的にはFOXL3相互作用因子の変異体解析やライブイメージング解析を行い、生殖細胞の性決定機構をFOXL3の作用機序から明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に予定していたMS解析を行わなかったために、次年度使用額が生じた。MS解析に必要となる消耗品や試薬は、2021年12月頃までに購入予定である。2020年度分として請求した「メダカ維持備品・分子生物学関連試薬・抗体」の購入のための助成金は、MS解析データが得られる2021年2~3月頃に使用する予定である。
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