研究実績の概要 |
本研究は、転写因子FOXL3の作用機序解明を通じて生殖細胞の性決定機構に迫ることを目的とした。事業開始当初はFOXL3に対する免疫沈降(IP)およびマススペクトロメトリー(MS)を行うことでFOXL3と相互作用する因子を網羅的に同定し、それらの因子の機能からFOXL3の作用機序に迫る予定であった。しかしながらIP-MSに必要となる細胞数が想定を大きく上回ったため、当初の計画を変更してFOXL3発現細胞をより効率的に単離可能とするトランスジェニックメダカfoxl3p-EGFPを育成中である。 一方、遺伝学的解析から明らかになったFOXL3下流因子であるFBXO47およびREC8Aの機能解析については大きな進展が見られた。両遺伝子の変異体メダカは雌性不稔となり、卵形成初期で分化が停止していた。FBXO47変異体では、卵胞形成に重要な転写因子群(LHX8B, FIGLA, NOBOX)の発現が抑制されたことから、FBXO47が卵胞形成を開始させる因子であることを突き止めた。さらにFBXO47変異体の生殖細胞は、卵巣内で精子形成を行うことが示された。この結果は、FOXL3が発現した後も、卵形成経路と精子形成経路と拮抗関係にあるということを示唆していた。 REC8A変異体の卵巣では、第一減数分裂前期における相同染色体の対合に異常が認められた。この異常はREC8A変異体の精巣では認められず、減数分裂の制御機構に性差があるという驚くべき結果が示された。精巣内の生殖細胞ではREC8AのパラログであるREC8Bが発現していたことから、魚類で遺伝子重複により生じた2つのパラログ遺伝子が機能分化した可能性が高い。 今後は、E3ユビキチンリガーゼであるFBXO47の基質を同定することで、生殖細胞の性決定機構を解明したい。また減数分裂染色体の性差をもたらす分子機構に迫っていきたい。
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